『はぁ…ドキドキした。デントさんにあんなこと言われたら…』



大好きな人に可愛いなんて言われたら心臓が張り裂けそうになる。嬉しいけれど、恥ずかしくて彼の顔なんて見られなくなってしまう。


自室に戻ったナマエは扉に背を預け、ずるずるとその場にへたり込んでしまった。そんなナマエの様子にクルミルとポッチャマは二匹揃って首を傾げている。



「ポチャ?」

『ああ…ごめんね、ポッチャマ。ちょっとドキドキしちゃって…何でもないの、』

「クリュ〜」

『クルミルもごめんね。バタバタして驚いちゃったよね』



自分を見つめる二匹の頭を優しく撫でる。嬉しそうに気持ち良さそうに、二匹のポケモンは目を細めた。



『そうだ!もう一度、ちゃんとご挨拶しよっか。私はナマエ、そしてポッチャマ。私とポッチャマはパートナーなんだ。勿論、クルミルも此れからは私のパートナーになるんだよ。ポッチャマと仲良くしてね』

「クリュ!クリュ!」



クルミルはへたり込んだままのナマエの膝元で嬉しそうにピョンピョンと跳ねた。その姿に可愛いなぁ、つい綻んでしまう。



『ポッチャマも仲良くしてあげてね、お兄ちゃん?』

「ポチャチャ!」



ナマエの言葉を聞き、任せろと言わんばかりに胸を張るポッチャマ。何だかんだで面倒見が良いので、任せても問題はないだろう。



『よし!クルミル、少しジッとしててね。このモンスタボールに――…』

「クリュッ!」



クルミルを正式に自分のポケモンにする為にはモンスタボールに入らなければいけない。

クルミルの額にモンスタボールを当てようしたナマエだったが、それをする前にクルミル自身からボールに向かって飛び跳ねて来たのだ。

クルミルはモンスタボールから放たれた赤い閃光に身を包まれ、自らボールの中へ入って行った。



『ク、クルミルってば…まあ、いっか!あ、ポッチャマもそろそろ戻る?』

「ポチャ!」



ナマエの問い掛けに首を縦に振るポッチャマ。ポッチャマもまた赤い閃光に身を包まれ、モンスタボールの中へ戻っていった。



『新しいポケモンかぁ、きっと賑やかになるだろうなぁ…』



両手に握られた二つのモンスタボールをナマエは嬉しそうに見つめた。



『さて、と…』



いつまでも扉の前でへたり込んでる訳にはいかない。ナマエはその場から立ち上がると握っていたモンスタボールを小さくし、腰ポケットに仕舞った。



『さっきは恥ずかしさのあまり、勢いで部屋に戻って来ちゃったけど、此れと言ってやる事がないんだよなぁ…』



そう呟きながら、窓辺へと足を運ぶナマエ。カーテンを開けると雲ひとつない快晴の空が広がっていた。



『わぁ、良い天気!こんなに晴れてたら、部屋に居るのが勿体なく感じちゃうな…』



よくよく考えれば、サンヨウシティには居るもののジムから殆ど動いていなかった。デント達は店やジムの事もあり、頻繁にはジムを空ける事は出来ない。

ナマエは散歩とリフレッシュを兼ねて、サンヨウシティを散策する事にした。



『デントさんに伝えて行かなきゃ、』



勝手にジムを出る訳にもいかず、心配を掛けさせまいと、ナマエはもう一度キッチンへ向かう。

キッチンに着くと、まだそこにはデントの姿があった。



『デントさん、』

「ナマエさん?どうしたの?」

『あの、少しだけ町の中を散策して来ても良いですか?』

「町の中を?」

『はい。天気も良いし、ずっと部屋に籠るのは勿体無いなぁって思って…』



ナマエの言葉にデントは少し難しい表情を浮かべた。町の中は確かに安全ではあるが、万が一という事もある。また危険な目に遭ってしまうのではないか、憶測が飛び交う。



「ひとりで行くの?」

『デントさん達はジムやお店の事があるからと思って、ひとりで行こうかと…』

「…それは許可出来ないな、」

『デントさん…』



此れ以上、彼女を危険な目に遭わせる訳にはいかない。デントは身を案ずるが故にナマエを引き留めた。



「離さないって言っただろう?だからナマエさんをひとりで出歩かせる訳にはいかない、でも…」

『でも…?』

「ひとりでは許可出来ないけど、僕と二人なら大丈夫だよ」

『え、でも…!』

「ジムや店の事はコーンとポッドに任せておけば大丈夫だから安心して?」

『そんな、二人に悪いですよ…!』

「大丈夫だって、ね?僕が居なくてもちゃんと此処は回るから気にしないで」



デントの言葉に内心少しだけモヤっとしたが、デントが言うのだから間違いないのだろう。ナマエは申し訳なさそうに首を小さく縦に振った。



「そうと決まれば準備しないとね、少し待っててくれるかな?此処を片付けたら直ぐに行くから、」

『あ、あの…デントさん…』

「ん?」

『ありがとう、ございます…』

「うん、どういたしまして」



ふ、と伸びてくるデントの大きな掌。右腕と腰を掴まれデントの方へ引き寄せられる。



『デントさ――…ッ、』



重なる二人の唇。柔らかく温かな唇独特の感触が伝わってくる。



『ん、ぅ…』



触れるだけの短い口付けだったが、離れ側に舌先で唇をペロリと舐め取られた。



『んむ…ッ』

「ナマエさん、可愛い」

『ま、またそんなこと言って…!』

「あはは、本当の事だからね。それじゃ、少し待ってて」



未だ残る唇の感触。ナマエは片手で唇を押さえながらデントの背中を見つめた。











(キス、何度目だろう――…)



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