「ナマエさん、お疲れ様です!」
『あ、お疲れ様です。今からお昼休憩ですか?』
ナマエと言葉を交わすのはギアステーションで働く男性駅員の一人だ。同じ駅で働く者同士、構内で擦れ違えば声を掛け合うのは当然の事だ。
「はい、これから休憩です。ナマエさんもご一緒にどうですか?」
『是非と言いたいところなんですが、まだ仕事が残っていて休憩は先になりそうなんです』
「それは残念。あんまり働き過ぎちゃダメですよ?それじゃ、私はお先に休憩行ってきます」
『はい、ごゆっくり』
昼食に誘われたが午前の作業がまだ終わっていない事に加え、別の理由も有りやんわりと断るナマエ。
『…一緒に食事なんてしてたら後でどうなるか。ノボリさんは直ぐ嫉妬するからな、』
腕に抱えていた書類を抱え直しながら、小さく溜め息をひとつ吐いた。
「私が何ですって?」
突如背後から降り掛かる聴き慣れた低い声。
『ノ、ノボリさん…!』
「私の事を言っていたでしょう?何とおっしゃっていたんですか?」
『え、いや…今日もノボリさんは頑張って働いてるんだろうなって…』
「そんなに私が嫉妬深いとお思いですか?」
『しっかり聴こえてるじゃないですか…』
まさかノボリ本人に聴かれていたとは、と引き攣った表情を浮かべるナマエ。ノボリとナマエは社内恋愛中の公認カップルだった。
「その通りでございます。私は嫉妬深い男ですよ」
『え、』
突然手首を掴まれ、抱えていた書類が数枚床にひらりと落ちていく。
『ノ、ノボリさん…ッ』
そのまま腕を引かれノボリに寄せられるナマエの身体。密着すれば腰を抱えられ、見下ろす形でノボリが此方を見つめている。
「ナマエが異性と言葉を交わすだけで気が狂いそうになります」
『ノボリさん、見られちゃいますって…!』
「構いません」
『いやいや、仕事中ですよ!ノボリさん、離し…――んぅ、』
紡ぐ言の葉を強制的に遮られる。ねっとりと深く絡められ、思考回路が停止しそうになってしまうナマエ。酸素が足りなくなる程、それは深く強引だった。
『ふ、ぅ…ッ』
「は…、」
漸く口付けから解放されれば、未だ互いの唇を結び続けている銀の糸。それはゆっくりと細くなりながら切れていった。
『ノボリ、さん…』
「嫉妬深くなる程、ナマエを愛している証拠でございます」
『私だってノボリさんのこと愛してますよ…』
「ナマエ、申し訳ありません。仕事中とは分かっているのですが、どうも抑えが気がず…」
ナマエの身体を離し、床に舞い落ちた書類を拾い上げるノボリ。
『…こういうのは、ちゃんと家でして下さい』
「今晩、でも?」
『・・・ッ、』
ナマエはノボリの言葉に顔を紅潮させながら無言で小さく頷いた。自分から誘ったようなものだと言うのに、言った後から羞恥が込み上げてくる。
「真っ赤なナマエも愛らしゅうございます」
『も、もう!』
「ふふ、仕事に戻りましょうか」
嫉 妬 深 い
(…――計り知れない程、ナマエを愛しているのですよ、)
--END--
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