『デントさーん!』
タマゴが孵化した事をいち早く知らせるべく、ジム内を駆け走るナマエ。その腕には孵化したばかりのポケモンが大事に抱き抱えられている。向かった先はキッチンだった。
君 を 護 る た め に
『デントさん!』
「あれ、ナマエさん?部屋に戻ってたんじゃ…」
店の準備をしているのだろうか、キッチンに立つデントの手元には様々な食材が並べられている。
「もしかして、そのポケモンは…」
ナマエに抱き抱えられているポケモンに直ぐに気付くデント。
『生まれたんですよ!デントさんに貰ったタマゴから!』
「そっか、やっと生まれたんだね」
『でも私、この子の名前とか全然分からなくて…』
「このポケモンはクルミルっていうポケモンだよ。そっか、お婆さんはクルミルのタマゴをくれたんだね」
クルミルはすっかりナマエに懐いており、甘えるように腕の中で頬を擦り付ける仕草を何度も見せた。
『クルミル、可愛い名前…』
「ポ、ポチャチャ!」
『あはは、ポッチャマも可愛いよ?私の一番なんだから』
「ポーチャ!」
自分よりも可愛い存在なのか、と少し慌てるポッチャマ。新しいポケモンに出会えた嬉しさ半面、可愛がるナマエの姿に少しだけもやっとした気持ちになってしまった様子。
「ポッチャマに次いで、きっと良いパートナーになるよ」
『だと嬉しいです。よろしくね、クルミル』
「クリュ!」
「クルミルは草と虫タイプのポケモンなんだ。育て屋のお婆さんにお願いしていたのは草タイプのポケモンだったんだけど、クルミルとは思わなかったな」
『そうだったんですね。本当に素敵なポケモンをありがとうございます。今までポッチャマと二人だったので草タイプの事とか他のポケモンの事とか、沢山教えて下さいね!』
よしよし、とクルミルの頭を撫でながらデントに微笑み掛ける。その微笑みの所為か、赤面してしまうデント。慌てて顔を伏せては手元の食材を手に取り選別する仕草を見せた。
「…ッ、勿論さ」
『デントさん?』
「な、なんだい?」
『どうかしました?何だか、急に様子が…』
突然、顔を伏せられ様子が変だなと不思議そうに首を傾げるナマエ。
「別に、何もないよ…」
『私、何か変な事でも言いました?』
「いや、そんな事は…」
否定しようと伏せていた顔を上げてれば、目の前にはナマエの顔が間近にあり、更に顔を紅潮させるデント。
「わ、ちょ…ナマエさん、近い…!」
『デントさん、顔真っ赤ですよ?』
「そ、それは…」
『それは?』
「ナマエさんの笑った顔が、その…いつも以上に可愛い過ぎて…」
デントの言葉に今度はナマエが顔を紅潮させた。まさか、そんな事を言われるとは思っていなかったからだ。
『可愛い、なんて…あ、その!私、デントさんのお邪魔になると思うし、部屋に戻りますね…!』
「え、あ…うん。分かったよ」
急にドキドキと高鳴り出す胸の鼓動。その場の空気に居ても立っても居られなくなったナマエは逃げる様に部屋へと戻って行った。
「…あの笑顔は反則だよ、」
キッチンに一人残されたデントは火照る頬を押さえつつ、ぽつりと一言呟くのだった。
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