『あいたたた…、』

「お客様、大丈夫でございますか!?』

「ノボリ兄さん、足を怪我してるよ」



カナワタウン行きの列車が発車し、ホームがガラリとしている中に、一人の女性とサヴウェイマスターの姿があった。



「君、大丈夫?派手に転んだね」

『大丈夫、です…』

「血が出ていますね、応急処置を致しましょう。私はサヴウェイマスターのノボリと申します。失礼ですが、お客様のお名前は?」

『…ナマエです、』



ナマエと名乗る女性は、列車に乗り遅れまいとホームを走っては盛大に転んでしまい、結果的に乗り遅れ今に至る。

そこに偶然通り掛かったノボリとクダリがナマエの元に駆け付けたのだ。ナマエは転んだ瞬間を見られていた事が恥ずかしくて堪らない様子。



「ではナマエ様、処置室までお運び致します」

『ひゃッ!』



突然ふわりと宙に浮かぶ身体に驚き、小さく声を上げるナマエ。怪我をした足では無理だろうと、ノボリがナマエを抱き上げた。



「しっかり掴まっていて下さいまし」

『は、はい…ッ』



躊躇いつつも落ちないようにノボリの首に腕を回すナマエ。ノボリはそのまま処置室へ向かった。

処置室に着くと備え付けのパイプ椅子にナマエを下ろし座らせた。



『あ、ありがとうございます…』

「お気になさらず、それよりも足を見せて頂けますか?」

『は、はい』



ノボリに促され怪我をした方の足を向けるナマエ。転んだ衝撃でぱっくりと皮膚が切れてしまっていた。



「ノボリ兄さん、救急箱持って来たよ」

「助かります、クダリは先に戻っていて下さいまし。此処は私一人で十分でしょう」

「わかったよ。ナマエさん、もうホームを走っちゃダメだよ?お大事にね」



ニッコリとナマエに笑顔を見せながら手を左右に振るクダリ。クダリは二人を残し、そのまま処置室を後にした。



「消毒を致しますので少し痛みますよ」



そう言って、クダリが準備した救急箱から消毒液とガーゼを取り出し、血が滲む傷口へと消毒液を垂らす。



『い、ッ…んぅ、』



消毒液が染みる独特の痛みに耐えきれず、ギュッと目を閉じ、服の裾を握り締めるナマエ。



「これだけの傷ですからね、痛みも大きいでしょう。ナマエ様、我慢して下さいまし」



ノボリは傷口をしっかりと消毒し、異物が入ってないか確認してから傷薬を塗布し、ガーゼを当てた上に包帯を丁寧に巻いた。



「さぁ、終わりましたよ」

『ありがとう、ございます…』



ナマエはぺこりとお辞儀をしながら礼を述べる。



「クダリも言っておりましたが、ホームを走るのは大変危険でございます。今後また怪我をしないように十分注意して下さいまし」

『本当にごめんなさい…』

「良いのですよ、怪我だけで済んだのですから」



ナマエは反省したのか、顔を俯かせている。そんなナマエにノボリはそっとナマエの頭に自らの手を乗せ、ぽんぽんと優しく撫でてみせた。



『ノボリさん…?』

「そんな顔をしては可愛いお顔が台無しでございますよ」

『・・・ッ!か、かわ…!?』



可愛いという慣れない言葉にボンッと顔を見て赤らめるナマエ。普段、可愛い等と言われる事が無い為にナマエは反応に困ってしまった。



『可愛い、なんて…ッ!』

「その反応も可愛いらしゅうございます」

『そ、そんな…有り得ないです、』



熱く火照る顔を冷まそうと両手で頬を押さえてみるが、手までも熱く逆効果だった。



「これも何かの縁でしょう」

『縁…?』

「ナマエ様が良ければ、またお会い出来ないでしょうか」

『えッ、』



ノボリの突然の提案に驚くナマエ。手当てをしたら終わりだと思っていた故にノボリの提案はナマエを驚かせるものだった。



『で、でも…私はただの乗客で…しかもノボリさんにはご迷惑をお掛けしたばかりなのに、』

「世の中、出逢いというものは突然に訪れるものです。せっかくナマエ様と出逢えたのですから、私はこの出逢いを大切にしたいと思っております」



偽りの無いノボリの真っ直ぐな言葉にナマエは心を動かされたのか、暫し悩んだ末に小さく頷いた。



『是非、また会いたいです…』

「嬉しいお返事、ありがとうございます」

『私の方こそ…』

「ところでナマエ様、この後のご予定は?」



先程、ナマエが乗り遅れてしまったカナワタウン行きの列車の事を思い出し、問い掛けるノボリ。



『あ、えと…さっき乗り遅れてしまったので、予定も無くなってしまいました。なので、自宅に帰ろうかと…』

「ご自宅はライモンシティに?」

『はい、』

「左様でしたか。では、ナマエ様が良ければご自宅までお送り致しましょう。その脚では心配ですからね。最終列車発車まで暫し時間がありますので、お待ち頂けるのならば…」



ナマエの自宅がライモンシティだと分かり、自宅まで送ると提案するノボリ。サヴウェイマスターとは言えど、相手は異性だ。提案に戸惑いを見せるナマエだったが、相手がノボリならと首を縦に振った。



『何から何までありがとうございます。ノボリさんは優しいですね』



紳士という言葉がとても似合うノボリ。ノボリの優しさにナマエは少しだけ胸を高鳴らせた。



「お相手がナマエ様だから、かもしれません」

『・・・ッ、』

「冗談ではないですよ?まだ互いの事は分かりませんが、外見だけでいうと私の好みに当て嵌まりますから」

『え、』

「それでは暫く此方でお待ち下さいまし。業務が終わりましたらお声を掛けさせて頂きますので」

『…ッ、分かりました』



そう言って、ノボリは少しだけ名残惜しそうにナマエを見つめてから、ナマエを残し処置室を後にした。

お互いの事など未だ何も知らない二人だが、ノボリを待っている間にナマエの頭の中ではノボリの言葉が何度も再生されていた。





出 逢 い





…――ノボリとナマエ、これが二人の出逢い。





--END--

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