まだ陽が完全に昇りきる前の明け方。同じベッドで未だ眠りに就くノボリを起こさぬよう、気を配りながら起き上がるナマエ。心の中で「おはよう、ノボリさん」と呟いた。

足音を立てぬように向かった先はキッチン。毎朝、ノボリの弁当を作るのが習慣だ。朝食は軽めにコーヒーとトーストだけ。



『ふぁ…、昨日夜更かししちゃったから少し眠いな…』



寝起きの重い瞼を片手で軽く擦りながら椅子に掛けていたエプロンを手に取り身に着ける。ノボリが起きてくるのは一時間後。一人分の弁当を作るのには十分時間がある。

定番の卵焼きや昨晩の夕食とは別に取っておいた唐揚げ、煮物等、用意していた物を手際良く弁当箱へ詰め込んでいく。



『これで良し、と…』



弁当の準備を終え、そろそろ起きてくるノボリの為にトーストを準備するナマエ。焼き上がる頃にはノボリも起きてくるだろう。

トーストが焼ける香ばしい匂いと挽き立てのコーヒーの香りがキッチンに漂い始めると同時に寝室の扉が開く音が聴こえてきた。



「おはようございます、ナマエ」

『ノボリさん、おはようございます』

「今日も良い香りですね」

『ノボリさんの為ですから』

「ありがとうございます、顔洗って着替えて来ますね」

『はい、』



そう言ってノボリは一度キッチンを出て洗面所へ向かった。ノボリが支度しているに焼き上がったトーストを皿に乗せ、隣に目玉焼きと焼いたベーコンを添えてテーブルへ。コーヒーはノボリが戻って来てから淹れよう、そんな事を思っているとノボリが戻って来た。



『コーヒー、今淹れますね』

「はい、ありがとうございます。朝食、頂きます」



ノボリは「頂きます」と言いながら丁寧に手を合わせる。



『ノボリさん、今日も遅くなりそうですか?』



ドリップし終えたコーヒーをマグカップに注ぎながらノボリに尋ねる。此の所、ノボリは残業続きだった。遅い時は午前様になる事もあり、ナマエはノボリの身体を心配していた。



「早く帰れたら良いのですが…」

『身体とか大丈夫ですか…?昨日も遅かったですし、寝不足なんじゃ…』

「ふふ、大丈夫ですよ。ナマエがサポートしてくれますから、この程度の疲労は何て事ないです」



ノボリはニコリと微笑んでみせながら、ナマエが淹れたコーヒーを口に含んだ。朝食を食べ終えたノボリは空いた皿の上にフォークを置き、再び手を合わせた後に椅子から立ち上がる。



「今日も美味しゅうございました。さて、そろそろ時間ですね」

『あ、もうそんな時間…?』

「中々構ってあげられなくて申し訳ありません」

『気にしないで下さい、あ…これ今日のお弁当です』

「いつもありがとうございます。ナマエが私の奥さんで本当に良かったですよ、感謝してもしきれません」



ノボリは自分の象徴でもある黒色の上着に袖を通すと、差し出された弁当を受け取り鞄に詰めた。



「それでは、行って参ります」

『はい、行ってらっしゃい』



玄関口までノボリを見送るナマエ。仕事である以上仕方ないのは分かっているのだが、ナマエの表情には少しばかり寂しさが伺える。そんなナマエを軽く抱き寄せるノボリ。ナマエの額に口付けを落としては優しく微笑んだ。



『ノ、ノボリさん…ッ』

「明日は久々の休みですから、ナマエの好きな事をしましょう」

『ほ、本当ですか…!』

「はい、ですから寂しい顔をするのは止して下さいまし」

『は、はい…!』



明日が休みである事を知らされたナマエの表情は寂しさから一変し、パァと明るい表情に変わった。

それからノボリはもう一度「行って参ります」と言ってからギアステーションへ向かった。





変 わ ら ぬ 日 常





『…――明日はノボリさんとずっと一緒に居られるんだ、何して過ごそうかなぁ』



始まったばかりの一日がとても長く感じるナマエ。早く明日になれば良いのに、と胸の中で何度も呟いたのだった。




--END--

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