目の前に居るナマエさんが僕の知っているナマエさんでないならば、一体誰だというんだ…?



「嘘、だ…」



正直、今の状況から逃げ出したかった。僕にはもう、ナマエさんを助ける術なんてない。それにヤナップだって居ない。もう、どうする事も出来ない…ただ無力な男に成り下がってしまっただけだ。



「・・・ッ、」



デントはその場に項垂れるようにして地面にへたり込んだ。



『約束は果たしましたよ…』

「そうだな、お前にしちゃ上出来だったぜ。さぁ、奪ったモンスターボールを渡して貰おうか」

『渡す前にひとつだけ我侭を聞いて貰えませんか?』

「どんな我侭だ?」

『最後にお別れをさせて下さい…』

「フン、未練たっぷりってわけか。まぁ、良いだろう…行って来い」



ナマエはプラズマ団員に『有難う御座います』と礼を告げると、再びデントの前へ歩み寄る。



『デントさん、』

「ナマエさん、君は何故こんな事を…」



デントの言葉に目許が熱くなってしまったが、何とか涙だけは堪えるナマエ。しかし、ナマエの瞳は僅かに潤んでいた。



『デントさん、私はもう前みたいな私じゃないんです…』

「・・・、」

『だから――…』



ナマエは突如デントに背を向けた。そして、右手に握っていたモンスターボールをプラズマ団の方へと向けた。



『だから、私は今までの弱い自分自身に別れを告げる。そして、アンタ達プラズマ団を必ず降してみせる!』

「な…!テメェ、裏切ったな!」

『無能なアンタ達だからこそ、私の策略にまんまと嵌ってくれた。それには礼を言うわ、有難う。だけど、アンタ達がしてきた事は絶対に許さない――…行くよ、ポッチャマ!』



ナマエはプラズマ団に向けていたモンスターボールからポッチャマを繰り出した。思わぬ目の前の光景に、デントは唯々目を丸くしていた。



「ナマエさん…まさか、君は…!」

『ゴメンなさい、デントさん…』

「ひ、酷いじゃないか…」

『本当にゴメンなさい…だけど、その話はまた後でしましょう。今は目の前に居る敵をやっつけなきゃ!さぁ、ポッチャマ!アイツ等にギャフンと言わせてやるわよ!』

「ポチャッ!」



ナマエの勢いにポッチャマはヤル気満々の様子。そんなナマエとポッチャマを目の前に、プラズマ団員もその気にさせられた様子でプラズマ団員もポケモンを繰り出してきた。



「行け、ミルホッグ!」



プラズマ団員はヤグルマの森の時と同様にミルホッグを繰り出してきた。



「何がお別れだ!俺達を騙しやがって…!」

『だから、無能だって言ってンのよ!』

「何ッ!?」

『誰がデントさんにお別れするなんて言った?アンタ達が勝手に勘違いしたんでしょ!』

「うぐ…貴様ァ…!」

『私をナメないで!ポッチャマ、"バブルこうせん"!』

「ポーチャァアアッ!」





ナマエの指示を受けたポッチャマはミルホッグに向って勢い良く"バブルこうせん"を放った。











(デントさん、見てて…!貴方に護られてばかりだったけど、今度は私がデントさんを護ってみせるから――…!)



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