…――痛々しいが何処か気持ち良い音が室内に響いた。



「…――ッ、痛い…」

『何考えてんのよ!?変態デント!女性に向かっていきなり脱げなんて…!』

「い、いや…そういう意味じゃなくて…」



デントの左頬は真っ赤になっていた。薄っすらとナマエの手形も浮かんでいる。デントは平手打ちされた左頬を痛そうに片手で摩っていた。








世 界 で 一 番







『脱がせてどうする気だったのよ…!私の中でデントは紳士だと思ってたのに…』

「僕も男だからね…って、そうじゃなくて…別に如何わしい事をするつもりで脱いで欲しいと言ってるわけじゃないんだけど…」



一瞬だけ"男の本能"らしきものを語ろうしたデントだったが、今はそういった話ではない様子だった。



『じゃあ、どういうつもりなの?』

「うん、実はさ…」



デントは自身の足元に視線を落とすと、何やら持参していた紙袋の中をガサガサと漁り始めた。その姿をナマエは不思議そうに見つめている。

数秒後、デントが紙袋の中から取り出した物はナマエ自身何処か見覚えのある物だった。一度は「何だったか…」と思考を巡らせるがデントが取り出した物が何だったのか直ぐに思い出した様子のナマエ。



『デント、これ――…』

「見覚え、あるでしょ?」

『嘘、何で…!』



…――正直、私は驚いた。

今、デントが持ってる物って、昨日私が読んでた雑誌の中に掲載されていた洋服によく似ていた。それも、私が一番可愛いなって思ってチェックを入れていた服だ。



「昨日、ナマエが帰った後、雑誌が少し気になってね…」

『まさか、ゴミ箱の中から…?』

「うん。捨てた物を拾ってまで見るなんて失礼な事だと思ったんだけど…でも、この服が気になってたんだよね?」



やっぱり、この服は雑誌に掲載されていた服と同じ物だったんだ…。私がその服が気になってチェックを入れていたのを知って、わざわざ買って来てくれたんだ…。



「この服、可愛いよね。ナマエにとても似合うと思うよ」

『た、確かに服は可愛いけど…!でも、…ッ』

「…でも?」



(…――でも、私は可愛くなんかない。服は可愛いけど…着る本人が可愛くなかったら、せっかくの可愛い服も可愛く見えなくなっちゃうよ…)



『私には似合わないよ…』

「似合う似合わないは着てみてから判断する事じゃないかな?」

『着なくても分かるもん…!』



本音を言えば、デントに幻滅されるのが怖かった。デントは着る前から似合うって言ってくれてるけど、もし似合わなかった時の事を考えると…。



「兎に角、本物が目の前にあるんだから着てみようよ?せっかく買って来たんだしさ…」

『…ッ、』



躊躇うナマエを他所に、デントは服を持ったままナマエの肩を押した。流石に居間のど真ん中で着替えさせるわけにもいかない為にナマエを寝室へと半強制的に向かわせた。





『ほ、本当に着替えるの…?』

「勿論」

『うぅ…』

「僕が着替えさせた方が良いかな?」

『ダ、ダメッ!絶対ダメ!!じ、自分でちゃんと着替えるから…あっち、向いてて…』



デントの言葉に"カァア…"と頬を林檎のように染めるナマエにデントは"クスクス"と含み笑いを浮かべながら、不本意ながらもナマエに背を向けた。



「少し残念だなぁ、ナマエの生着替えが見れると思ったのに…」

『ば、馬鹿ッ!変なこと言わないでよ…!』

「あはは、冗談だよ」



からかってくるデントにナマエは羞恥しながらもデントが買って来てくれた服に急いで着替えた。何故かサイズはピッタリだった。



『デント…』

「んー?」

『き、着替えた…よ?』



ナマエの合図にデントは再びナマエの方へ振り返った。



「・・・、」



しかし、デントは無言…というより無反応に近かった。ナマエ自身に不安の波が一気に押し寄せる。



(嗚呼…、やっぱり似合わなかったんだ…。そうだよね、こんなに可愛い服が可愛くない私に似合うはずないよね…。最初から分かり切ってた事なのに…やっぱりショックだなぁ…)



何も言ってくれないデントに私はショックを受け、顔を俯かせた。暫くそうしていると、突如私の身体をふわりと包み込んで来るようにデントが抱きしめて来た。



『…デン、ト?』

「ゴメン、正直に言っても良いかな?」

『…ッ、うん…』




正直に、か…。

という事は、やっぱり可愛くなかったんだね。デントが「正直に」なんて言うから、後に何を言われるか分かっちゃうじゃない…。



(失望、させちゃったよね――…)






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