慌ててケフカの部屋へ足を急がせるナマエ。まさか、こんなにも早いうちに二人に勘付かれてしまうとは思ってもいなかった。
師 と 私 と 、
『はぁ、はぁ…』
ケフカの部屋に戻るとノックをする事すら忘れ、辿り着いたと同時に扉を開け中に入ると後ろ手に急いで扉を閉めた。少しだけ息が上がっているナマエ。
「おや、早かったですね。どうしたの?そんなに息上げちゃって」
『あ…ご、ごめんなさい…!私ってば慌ててノックもせずに…ッ』
「何かあった?」
珍しく慌てているナマエにケフカは少し心配になり、ナマエの傍に近付いた。傍に寄り添えば、細い腰を抱き寄せるケフカ。
『あの…、』
「なーに?」
『ケフカ様との、その…関係を持った事が勘付かれてしまったというか…。レオ将軍とセリス将軍に雰囲気が変わったんじゃないかって言われてしまって…』
ナマエの言葉を聞けば、何だそういう事か、とケフカは安堵した。
「それで慌てて戻ってきたんですか?」
『はい、吃驚してしまって…』
「ヒッヒッ、ぼくちんに抱かれて大人の色気って奴が出たんだろうね」
『そんな、事は…』
可愛いねぇ、とナマエの頭を胸元に抱き寄せるケフカ。トクントクン、と聴こえてくるケフカの鼓動の音が心地良く感じるナマエ。
『レオ将軍にまで勘付かれてしまうとは…』
「ナマエちゃん、気を付けてよ〜?」
『え…?』
「変な虫が付かない様にって言ってんのよ。まぁ、そんな奴居たらぼくちんが成敗しちゃうけどね」
ケフカの事だ、成敗するというのは本当だろう。ナマエは苦笑いを浮かべながら、大丈夫ですよ、と一言だけ口にした。
「ナマエは可愛いからね」
『ケフカ様は褒め過ぎです、』
「ナマエが自分で思ってるよりも何百倍も可愛いですよ」
何度も可愛いと言われ恥ずかしくなってしまったのか、ナマエはケフカの胸元に顔を埋める。そんなナマエの髪をケフカは梳くように撫でた。
「ナマエ、」
『…はい、何でしょうか?』
「キス、しても?」
『は、い…』
ナマエは埋めていた顔を上げケフカに向けると、ゆっくり瞼を閉じた。同時に重ねられる唇。その唇はナマエよりも少しだけひんやりとしていた。薄く唇を開けば容赦無く割り入ってくる舌先。歯列をなぞられたり、舌を絡められたり、それは自由に口内を動き回る。
『ん、ぅ…』
少しだけ呼吸が苦しくなったのか、ナマエはケフカの袖をキュッと握り締めた。
「…――おや、苦しかったですか?」
袖が握られたと同時にケフカが唇を離す。開かれた唇の間から酸素を取り込むナマエ。互いの唾液で濡れたナマエの唇をケフカは親指でなぞった。
『す、少しだけ…』
「ヒヒ、これ以上やるとスイッチ入っちゃいそうになるねぇ」
『ま、まだお昼にもなってないのに…!』
「仕方ないでしょう、ぼくちんも男ですから」
もう一度、ナマエに触れるだけの口付けを落とした後、ケフカは抱いていたナマエの身体を離す。両腕を大きく天に伸ばし、欠伸をしながら再び執務用の長椅子に腰掛けた。
『…お仕事、しましょう』
口付けられた自分の唇を軽く指先で触れながら、ナマエはケフカの机とは別に備え付けられていた机に向かう。椅子を引けばゆっくりと腰を下ろした。
「はぁ〜、メンドクサーイ。もう今日はお休みでいいんじゃないのー?」
『ダメですよ、叱られますから』
「どうせ、仕事っていっても全部ナマエが片付けちゃうんだから」
『…そうですね、』
「その間、暇で暇でつまんないじょ〜」
『じゃあ手伝って下されば良いのに』
「ヒャハハッ、無理無理―!」
ケフカが手伝う事は殆ど無い。極稀にどうしても、とお願いした時だけは気分次第で手伝ってはくれる事もあるが。ケフカ自身が仕事を呆けるのは昔から変わらない事だった為、ナマエもケフカの態度には何とも思っていなかった。
「仕事なんかちゃっちゃと終わらせちゃって、」
『早く終わる様に頑張りますね』
ナマエはケフカに一度だけ微笑むと、ケフカの机に置かれていた書類に手を伸ばし自分の手元へ移動させペンを走らせた。
その間、ケフカはというとお気に入りの鏡で自身を眺めたり、爪を弄ったりと自分なりに暇を潰している。時折座って待つ事さえも嫌になったのかレビテドを使って室内を浮いては気ままに移動する様子も伺えた。ナマエはそんなケフカを特に気にする事なく、スラスラと羽ペンを走らせている。
三時間程経った頃、ナマエは走らせていたペンを止めた。羽ペンをインクボトルに立て掛けると、腕を上げ強張った筋を解す動作を見せる。
「ナマエちゃん、終わった〜?」
『いえ、まだ半分です』
「げ、そんなに?もうぼくちん我慢の限界なんだけど」
『書類の三分の一がケフカ様の始末書で時間掛かってしまって…』
「…そんな物、破って捨ててしまいなさい!何ならワタシが跡形も無く燃やして差し上げましょう!」
『ダメですよ、もう少し待ってて下さい。それにケフカ様も私の始末書を提出して下さったでしょう?』
今にも炎魔法で燃やしてしまいそうな勢いのケフカを宥めては、再びペンを握り走らせるナマエ。
「あれはナマエを守る為でしたから」
『じゃあ、私もケフカ様を守りますね』
「…――ぐぬぬ、」
ナマエの言い返しに対して、言葉に詰まったケフカは両手の指をクネクネと動かしている。始末書を直ぐにでも燃やしてしまいたいのだろう。
それから程なくして漸く全ての書類を書き終えたナマエ。ふぅ、と小さく溜め息を吐きながら、報告書と始末書を二つに分け、机の上でトントンと綺麗に書類を纏めた。
『ケフカ様、終わりましたよ』
「…んぁ、」
どうやらケフカは退屈過ぎて宙に浮いたまま居眠りをしていた。ナマエに声を掛けられ目を覚ます。
『思ったより時間が掛かってしまって、お待たせしました』
「ほーんと、長かったねぇ」
ケフカは床に下り立つと、未だ椅子に座ったままのナマエの背後に移動した。
『ケフカ様…?』
「頑張ったご褒美〜」
ご褒美と言いながら、ナマエの肩に手を置きやんわりと力を入れ肩を揉み解し始めたケフカ。ナマエは少し驚いたが、何も言わずにそれを受け入れた。
「ガチガチだね」
『頑張りましたから』
「痛かったら言って下さいよ」
『大丈夫です、とても気持ち良くて…ありがとうございます』
「お礼は良いですよ」
そのまま肩を揉み解し続けるケフカ。ナマエは与えられる指圧を心地好く感じながら、少し疲れた眼を休ませる為、その間だけ瞼を閉じた。
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