(…――私は此処に居ちゃいけない、)



揉め合うポッドとデントを見るに耐えられず、悪天候の中、ナマエはサンヨウジムから飛び出した。外はかなり強い横殴りの雨が降っており、雷も今朝のように鳴り続いている。けれど、今はそんな事を気にしている余裕なんて無かった。

とにかく、サンヨウジムから成るべく遠く離れた所まで行こうとナマエは必死に走り続けた。











『はッ、は…!』



気付けばゲートを越え三番道路の途中にある育て屋の先にまで来ていた。シッポウシティへ繋がる分かれ道の付近だ。

昼間にも関わらず、悪天候の為に夜の様な暗さで視界もかなり悪い。傘も差さずに出て来てしまったナマエの服は酷く濡れている。このままで居れば風邪を引くのも時間の問題だろう。



『酷い雨、傘くらい持ってくれば良かった…』



ナマエは取り敢えず雨宿りをしようと、何処か雨宿り出来そうな場所がないか周辺を見渡した。すると、少し先の岩山に洞窟のような入口を見つけた。



(あ…、あそこなら雨宿りに丁度良いかも…)



雨を凌ぐのには最適な場所だと判断したナマエは迷わず洞窟へ向かった。



『うわ、暗い…』



洞窟の中は薄暗く、その暗さに目が慣れるまで少し時間が掛かった。時折、水滴が水面に落ちる音が洞窟内に響き渡る。洞窟内はとても広く、ただの洞窟とは思えなかった。

暫く、洞窟の入口付近で雨宿りをしているとヒソヒソと人の話し声が聞こえた。最初は気のせいかと思ったが、その話し声は次第に大きくなってきた。



(話し声?もしかして、誰か居る…?)



洞窟内に自分以外の誰かが居ると確信したナマエは、洞窟内をゆっくり進み始めた。視界は悪くても段々と人影がはっきりしていくのが分かる。



(…――あ!あれは…!)



洞窟内から此方へと近付いてくる人影の正体にナマエは息を飲んだ。そして、すぐさま岩陰に身を潜めるナマエ。




「ガキからポケモンを奪うのは簡単だよなー。さっきの奴なんて弱っちぃミネズミとヨーテリーしか持ってなくてよぉ?」

「簡単に越した事はねェだろ。ゲーチス様も御喜びのはずだ」



(プ、プラズマ団…!誰かと思えば…!よりによって何でこんな所に…)



前方から近付いて来ていたのはプラズマ団だった。しかも、その内の一人は以前にナマエのポッチャマを盗ろうとしてデントに痛めつけられたプラズマ団員だった。

徐々に狭まるナマエとプラズマ団との距離。このままプラズマ団が洞窟の出入口に向かって行けば、ナマエは必ず見つかってしまう。




(…――嫌だ、こんな所でアイツ等に捕まるなんて…!)







…―――ガランッ







突如、ナマエが身を潜めていた岩陰の直ぐ傍で拳くらいの大きさの石が地面に転がり落ちた。その音でプラズマ団の視線がナマエが身を潜める岩陰へ向けられた。



(し、しまッ――…!)



「誰か居るのか!?」

「居るなら出て来いッ!」



ナマエはその場から動く事が出来なかった。動けるにしても、今岩陰から出て行けばプラズマ団に見つかってしまう。

単に石が地面に落ちただけ、と思ってくれれば少しは希望が見えたかもしれないが現実は甘くなかった。プラズマ団は何者かが洞窟内に身を潜めているのではないかと疑い、ナマエが身を潜める岩陰を覗き込んできたのだ。



「…――お、見ィつけた。こんな所で何してんのかなー?」

「オイ、誰が居たんだ?ちょっと退いて――…お前ッ!」

『・・・ッ、』

「え、何だよ?お前、この女と知り合いなのか?」



(…もう、何で見つかっちゃうのよ…!最悪だ…)



「知り合いも何も…なぁ?覚えてるよな、可愛いお嬢さん?」

『…もう、とっくの昔に忘れたわ』

「そうか。そりゃあ、残念だ…。オイ、この女を奥へ連れて行くぞ」

「お、おう…」

『ち、ちょっと…!離してよッ!』




プラズマ団は岩陰に身を潜めていたナマエの両腕を掴むと洞窟の奥へ連行した。





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