『よーし、できた!良い出来!』



部屋の隅で満足そうにするのはケフカの部下であるナマエ。両手で掲げているのは人の形をした人形だ。



『いやぁ、我ながら上出来』



ナマエが作ったのはケフカに良く似た人形だった。



『これでケフカ様がお留守の時も淋しくないはず』



自作したケフカ人形を胸元でギュッと抱き締めれば、ケフカ様…、と呟くナマエ。

ナマエはケフカへの憧れから帝国軍に入隊し、ケフカの部隊に自ら志願した。周囲からは頭がおかしいんじゃないかと白い目を向けられたが、無事にケフカの元に配属された女兵士だった。

配属されてからも憧れの気持ちは変わらず、寧ろ増していった。間近で見るケフカの姿、声、強さ、全てにおいてナマエの心を奪ってしまったのだ。いつしか憧れは恋に変わってしまい、ケフカも当然知っていた。



『本物の方が良いのは当たり前だけど、会えない時の方が多いからなぁ。ケフカ様、今頃何してるんだろう』



ケフカ人形を胸元で抱き、人形の頭を撫でるナマエ。今日は午前中で職務が終わってしまった為、ナマエは暇を持て余していた。それ故に出来たのがケフカ人形だった。暫く人形の頭を撫でていると、扉をノックする音が響く。



「ナマエちゃん、居るー?」



扉の向こう側から聴こえる声は間違いなくケフカのものだった。ナマエは声の持ち主がケフカだと分かれば、人形を抱えたまま急いで扉を開けた。



『ケフカ様!居らして下さったんですね!』

「退屈だったからね、ナマエちゃんも午後はお休みだったし」

『嬉しいです!でも呼んで下されば、私からお伺いしたのに…』

「気にしなくて良いですよ。部屋で待ってるのもつまんないしね。ところでソレは何?」



ケフカが指差したのは先程出来上がったばかりのケフカ人形だった。



「どっからどう見ても、ぼくちんだよね。その人形、」

『あ、えと…すみません、思い付きで作ってしまったんです…』



ナマエは照れた表情を浮かべながら、抱えていたケフカ人形をケフカ本人に見せた。ケフカはその人形を手に取ると様々な角度から人形を見回した。



「良く出来ていますねぇ」

『ホントですか!?ありがとうございますッ』

「でも、ぼくちんの人形なんか作ってどーするの?」



ケフカは人形をナマエに返すと、そのままナマエの部屋に入り、備え付けの椅子に腰を掛け脚を組んだ。



『えっと、その…ケフカが居ない時の為の代わりと言いますか…えへへ、』

「ふーん、ぼくちんが居ないと淋しい?」

『そりゃ、淋しいですよ!私がケフカ様の事をお慕いしてる事くらいご存知のくせに…』

「あーうん、知ってる」



ナマエの部屋は狭く、直ぐ傍には寝台があった。ナマエは寝台に腰を下ろせばケフカ人形を膝の上に置いた。



『ケフカ様は私の事なんて唯の部下としか思ってないと思いますけど…良いんです、それでも!ケフカ様の部下ってだけでも凄く嬉しいですから!それに、こうやって偶に逢いに来てはお話してくれて、もう本当に幸せ者です!』



ケフカ人形をキュッと握り締めながら思い付いた言葉を紡いでいく。



「相変わらず、良く喋るねぇ」

『えへへ、すみません…つい、』



照れ臭そうに笑うナマエを前にケフカは椅子から立ち上がると、ナマエの座る寝台に近付いた。



「そんなんで本当に幸せですか?」

『え?幸せですよ?』



ケフカの問い掛けにキョトンと不思議そうな表情を浮かべては返事するナマエ。ケフカはナマエの持つ人形を取り上げては、寝台へと放り投げた。



「目の前に本物が居るのにそれ以上は望まないんですか?」

『ケ、ケフカ様…?』



気付けばナマエの身体はケフカに押し倒されていた。目だけを横に向ければ、そこには先程ケフカが放り投げた人形が転がっている。



「ワタシの事が好きならばもっと求めれば良いでしょう。何故望まない?手に入れようと思わない?」

『ケケケ、ケフカ様!おお、落ち着いて…下さいッ!』

「落ち着いてますよ。落ち着くのはナマエの方でしょう?こうやってぼくちんに押し倒されて、心臓が破裂しそうになるくらいドキドキさせて」



そう言ってケフカは長い爪でナマエの左胸を服の上からトン、と突き刺した。



『わわわ、私は…!唯の下っ端兵士で、これ以上は望んじゃいけない…と思います…ッ』

「誰がそんな事決めたの?」

『う、それは…』

「じゃあ、ワタシが望むのは許されますね」

『え――…ッ!』



突如、生温い柔らかな感触が唇に伝わった。時折ぬるりとした感触もあった。ナマエはケフカに口付けられ一体何が起きたのか、と驚きを隠せない様子で目を見開いている。



『ん、んぅ…ッ!』



先程感じたぬるりとした感触はケフカに舐められた感触だろう。口付けは長くは続かず、直ぐに解放された。



『ケ、フカ…様…?』

「ナマエちゃんがぼくちんの事を好きで居る様に、ぼくちんもナマエちゃんの事が好きなんですよ」

『ぅ、え…!?』

「そりゃ、最初は何とも思っていませんでしけどね。徐々に惹かれていったんですよ」



ケフカの言葉に信じられない、と表情で驚くナマエ。そんなナマエの額にケフカは軽い口付けを落とす。



「だから、もうあの人形は必要ありませんよ。せっかく作ってくれたのは嬉しいけどね」

『ケフカ様…こ、これって夢ですかね…?抓ったら痛くないんじゃ――…イダイッ!』



夢なのでは、と自分の頬を抓り上げるナマエ。勿論、夢などでは無く現実。抓った頬には痛みが走った。



「信じられないようですねぇ」

『だ、だって!ケフカ様が私の事、想ってくれる日が来るなんて…考えた事なかったから…』

「心配せずともナマエの事を好いていますよ」

『ケフカ様ぁ…うぅ、』

「なーに泣いちゃってんの」



嬉しさの余り、子供の様に泣き始めるナマエ。溢れる涙をケフカは指先で拭い取った。



『嬉しく、て…ッ、あの…ケフカ様…』

「ん?」

『お人形、ケフカ様のお部屋に飾って頂けないですか…?捨てるのは可哀想で…』

「ん〜、そうだねぇ。せっかくぼくちんを想って作ってくれたみたいだし、飾るくらいはしてあげましょうかね」

『やった!嬉しいです、ケフカ様!ありがとうございます!』


ナマエは寝台に転がったままのケフカ人形に手を伸ばし、再び自分の胸元で抱き締めては人形の頭に口付けを落とした。



「ナマエちゃ〜ん、」

『はい!』

「ちゅーするなら、そっちじゃなくて、ぼくちんにでしょ」



そう言って、ケフカは再びナマエに口付けを落とした。今度は長くて深い濃厚な口付けだった。





人 形 よ り も 、





…――後日、ケフカの部屋に招かれたナマエ。室内を見渡すとケフカが使う机の上にはあの時の人形が置かれていたのだった。




--END--

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