「何で、そんなモン付けてんだよ…?」

『あの…これは、その…!』



(すっかり忘れてた…。昨日、コーンさんにキスマークを付けられたってこと…)



ナマエは首筋に浮かぶ紅い跡を隠すように片手を当てた。もう見られてしまっている為に無意味な行動とも言える。首筋の跡にポッドは怒りからかギュッと握り締めた拳を小刻みに震わせていた。











「誰だよ…」

『え…?』

「誰に付けられたんだよ!…まさか、デントか!?だからデントに怯えてたのかッ!?」

『え、違…ッ!』

「アイツ――…」

『ポ、ポッド君…!?』



先程、デントの名前を口にしながら怯えていたナマエの行動からポッドはナマエの首筋に跡を残した犯人がデントではないのかと勝手に思い込んでしまいナマエの部屋を飛び出した。そんなポッドに、ナマエは慌ててベッドから降りるとポッドの後を追う。

ナマエの部屋を飛び出して、ポッドが向かった先は言わずもがなデントの部屋。ポッドは扉をノックする事なくバン、と大きな音と共に部屋の扉を勢い良く開いた。



「おい、デントッ!」


「え、ポッド…?」


「デント…テメェ、ナマエちゃんに何しやがったんだ…ッ?!」



ポッドがデントの部屋に入ると室内にはデントの姿があった。しかし、何処か体調が悪いのか、デントの顔は少しだけ青褪めている。だが、体調が悪い等と言っている場合ではない。ポッドが何の理由もなしに部屋に押し掛けて来ているのだから。

デントは顔を青褪めさせつつ一体何が起こったのかと戸惑った表情を浮かべている。そんなデントを他所に、ポッドはデントの部屋に入るなりズカズカとデントに近付きデントの胸倉を掴んだ。



「お、おい…ッ!ポ、ポッド…?」

「ナマエちゃんに何したんだよ…」

「何、って…」

「言えよッ!」







…―――ドカッ!







「…――ッ!」





室内に鈍い音が響き渡った。

その時、ポッドの後を追って来たナマエがタイミング悪く部屋に訪れた。ナマエが部屋に訪れると、室内で尻を着いた状態で倒れ込むデントと仁王立ちの体勢でデントを見下ろすポッドの姿があった。デントの右頬は赤く腫れ上がっている。殴られた時に下唇を噛んでしまったのか、少しだけ出血もしていた。




『ポッド君――…ッ!…デン、トさん…!?』




(な、何これ、一体どういう事…?ま、まさか…ポッド君、勘違いしたままデントさんの事を――…)



目の前の状況にナマエはどうして良いのか分からなかった。ポッドはデントがキスマークを付けた犯人だと勘違いし、その上、デントを殴ってしまっていた。



(どうしよう…、私がちゃんと話さなかったから…!どうしよう、どうしよう――…ッ!)



「急に人を殴るなんて、ね…」

「俺にそうさせたのはデント自身じゃねぇのかよ」



デントはポッドに殴られた頬を手の甲で押さえながら、倒れ込んでいたその場からゆっくりと立ち上がった。



「何を勘違いしているのか僕には分からないけど――…」

「この状況で何言い訳してんだよッ!?」

「・・・ッ、」



ポッドは興奮しきっていた。自制なんてものはもう何処にもない。ただ、興奮と共に沸き上がる感情だけで行動している様だった。立ち上がったと同時に再び胸倉を掴まれたデントはポッドを睨み付けている。その行動が更にポッドを興奮させた。



『や、やめてよ…二人とも…!』



最早、ナマエの声はポッドにもデントにも聞こえていなかった。揉め合うポッドとデントを目の前にナマエはどうする事も出来ず、部屋の入口の傍で震えながら見ているだけだった。



(私の所為だ…、私が此処に来ちゃったからこんな事に…!)



こんな事になってしまったのも"全て自分の所為だ"と思い込んでしまったナマエは室内で揉め合う二人を残し、その場から静かに立ち去った。





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