鏡の前に立てば首筋に残された紅い跡。先程の痛みはこの跡が付いた時のものだった。



『何で、こんな…』



コーンさんの行動が理解出来なかった。何が理由でこんな跡を残したのだろうか。

ナマエの心は不安で一杯になっていた。デントにはおかしな事を言われ、コーンには他人から見えるような場所にキスマークと思える跡を付けられたのだ。



(一体、私はどうしたしら良いの…?)











「…――ッたく、デントもコーンも何処で何してやがんだよ…」



シンクの中に溜まった食器を洗いながらキッチンで愚痴を零しているのはポッドだった。



「デントは部屋に居るんだろうけどよー…コーンは大声がしたからって言って二階に行くし…。にしても、時間掛かり過ぎだろ!客も挑戦者も居ないからって俺一人に店を任せンのは解せねぇ!」



なかなか戻って来ない兄弟に苛立ちを隠せない様子のポッド。独りでキッチンに残された事が相当気に食わないらしい。



「…――時間が掛かり過ぎてしまってスミマセンね」



ポッドが一人を良い事に堂々と愚痴を零しながら"ガチャガチャ"と少し乱暴に食器を洗っていると、背後からコーンの声がした。ポッドは慌てて背後を振り返った。



「うげ!コ、コーン…」

「食器を乱暴に扱わないで下さい。割れたら弁償して貰いますからね」

「ま、まだ割ってねェだろ!」

「ですから、割る前に忠告しているのでしょう?」

「つ、つか!さっきの誰の大声だったんだよ?」



一通り食器を洗い終えたポッドは水道水で手を綺麗に洗い流し、タオルで手の水気を拭き取るとコーンの傍に歩み寄った。



「コーンの気のせいのようでした」

「はぁ?気のせい?俺にも聞こえたのに、か?」

「ええ、それも気のせいでしょう。本当に大声が聞こえていたとしても、その大声はこの建物内からでは無かったという事です」

「な、なんだそれ…」

「言葉の通りです」



ポッドはコーンの説明に「ふーん…」と納得したように返事をするも、本心では納得していなかった。



(確かにあの大声はこの建物内から聞こえたはず…、外から聞こえた物とは思えねェ…。となると、自分で確認するっきゃねェのか?でも、それはそれで面倒臭ぇなぁ…)



「それより、後片付け終わってないんでしょう?」

「え?あ、終わってねぇ…」

「全く…、さっさと終わらせますよ。今日は少し早めに店を閉める予定なんですから」

「え、何でだ?」

「ナマエさんの具合が少し悪いんですよ。なので今日は静かにしていた方が良いと思いまして、」

「ナマエちゃん、具合悪いのか!?」

「少しだけ気分が悪い、と…」

「マジかよー…看病してやんなくて大丈夫かな?」

「今日は安静にさせておきましょう。明日になっても快復しないようであれば、その時に考えれば良い事です」



コーンに説得されたポッドは渋々納得した様子で再び後片付けの作業に戻った。



(明日になれば、状況が一変するでしょうから…)



「おい、コーン!お前も早く手伝えっての!」

「あぁ、はいはい…分かってますよ」





せっせと後片付けをするポッドを横目に、コーンは薄っすらと笑みを浮かべていた。






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