誰も居ないサンヨウジムのレストラン、ホール内。…と、思いきや、ホールの隅のテーブルで一人雑誌に目を向ける少女の姿があった。
『どれもこれも可愛いのばっかりだなぁ…』
世 界 で 一 番
『あー、もうッ!どれも可愛いけど私には全然似合わない!』
少女は読んでいた雑誌を勢い良く閉じると、目の前のテーブルに上半身を突っ放した。
「ナマエ?何をそんなに悩んでるんだい?」
『あー…デントー…』
上半身をテーブルに突っ放し、その状態で項垂れていると"カツン、カツン…"と靴の踵でタイルを蹴る音が静かなホール内に響く。
その音とともに聞こえてくる男性の声。振り返れば、綺麗な緑色の髪をしたウェイター姿の青年…デントがナマエのもとへ近付いて来ていた。因みにデントはナマエの最愛の恋人でもある。
「…ファッション雑誌?」
デントは項垂れた状態のナマエの傍まで近付くと、ナマエが先程まで読んでいた雑誌に気付き、何の雑誌かを確かめようと雑誌を手に取った。
「へぇ…、可愛い服ばかりだね」
『ホント、可愛い服ばっかりなのよ』
「気に入った服は見つかったかい?」
パラパラと雑誌を流し読みするデント。やはり、女性ではない為か、どの服も同じようにしか見えていない様子。
そんなデントに、ナマエは気怠そうに腕を伸ばしデントの手から雑誌を取り上げた。
「あ…」
『見つけたけど、私には似合わないの』
ナマエは少し拗ねた様子でデントに告げると、椅子から"ガタッ"と音を立てて立ち上がり、取り上げた雑誌をクルクルと丸め、ホール内のダストボックスへ放り捨てた。
「何で捨てるのさ」
『もう読み終わったから要らないの』
デントに向けて吐き捨てるような言葉を残し、レストランの出入り口へ早足で向かうナマエ。
デントはナマエを追い掛ける事なく、先程までナマエが座っていたテーブルの傍からレストランを出て行くナマエの姿を目で追った。
(ナマエは何をあんなにカリカリしているんだ…?)
ナマエの姿が見えなくなると、デントは小さな溜息を吐きながらダストボックスの位置まで歩を進め、ダストボックスの中からナマエが放り捨てた雑誌を取り出し、再び雑誌の中身に目を向けた。
「…――あ、」
*****
…――翌朝、ナマエが未だ深い眠りに就いている最中、家のベルが室内に鳴り響いた。
『ん、ぅ…誰ぇ…?こんな朝早くに…』
重たい瞼を無理矢理抉じ開け、未だ言う事を利かない身体をゆっくり起こすナマエ。正直、かなり眠たそうだ。
「…――ナマエ、僕だよ。中に入れて貰えないかな?」
『…デ、デント!?』
ナマエの家を訪れたのがデントだと分かると、急いでベッドから下り、玄関に駆け足で向かうナマエ。
家の扉の鍵を解除し"ガチャリ…"と扉を開ければ、やはりデントの姿があった。ナマエは『家に来る予定等なかったはずなのに、何で…?』という表情を浮かべている。
「おはよう。ゴメン、朝早くから…もしかしなくても、寝てた?」
『お、おはよ…うん、寝てた…』
「やっぱり。寝起きって感じがしたからさ…特に髪の毛とか…」
『・・・ッ!』
デントに指摘され、慌てて寝癖が立つ髪の毛を両手で押さえるナマエ。そんな様子のナマエにデントは"クスクス…"と少しだけ笑いを零している。
『も、もうッ!デントがこんな朝早く来るから…!』
「だから、ゴメンって…クスクス…」
『もう笑わないでよ!デントのバカ!』
「だって、ナマエが可愛いから…ふふ、」
『…何処がよ!?…そ、それより…何か用事があって来たんじゃないの?』
ナマエは少し悔しそうな表情を浮かべながら、家の中に入るよう玄関の扉を大きく開け、デントを室内に招いた。
「うん、ちょっとね」
『ちょっとって言われても分かんないんですけど…』
「ナマエ、少しだけ僕のお願い聞いてくれるかな?」
『お願い?』
「そう、お願い。駄目かな?」
(デントが私に頼み事…?滅多に「お願い」なんて言わないのに…)
『駄目じゃないけど、一体どんな頼み事なの?』
「それは秘密。まずは"お願いを聞いてくれるか、聞いてくれないのか"の返事をして欲しいんだ」
『…何それ、ちょっとズルくない?』
「ズルくなんてないよ。ほら、返事を聞かせて?」
ナマエは胸元で両腕を組むと、床を向いて悩み始めた。暫くして答えが出たのか、組んでいた両手を解きデントに向き直るナマエ。
『分かった、聞いてあげる』
「良かった。じゃあ、早速なんだけど――…」
ナマエの返事にホッと安堵するデント。それに加え、デントは"ニコニコ"と満面の笑みを浮かべながらナマエの両肩に"ポン"と手を置いた。
「今、此処で脱いで貰えないかな?」
…―――バチィィインッ!
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