「デント、居るんでしょう?開けますよ?」



デントの怒鳴り声を心配してデントの部屋を訪れたコーン。扉の前で声を掛けるもデントからの返事がない事に更に不安を抱いたコーンはデントの返事なしに扉を開けようとドアノブに手を掛けた。











「デン――…」

「…何?どうかした?」



コーンが扉を開けようとしたその瞬間、ナマエを寝台の上に残したままデントが扉を開け姿を現した。デントの表情は何処か暗い。



「どうかした、じゃありませんよ。キッチンに居る時に怒鳴り声がしたので何事かと…」

「怒鳴り声…?コーンの空耳じゃないのかい?」

「…コーンだけなら未だしもポッドにも聴こえているようでしたが?一体何があったんです?」



コーンは両腕を組み、心配した様子でデントの顔色を伺っている。普段と何処か違うという事は既にお見通しのようだ。

しかし、そんなコーンを他所にデントは「別に何もないよ」と答え、扉を閉めようとした――…その時、コーンとデントの横をすり抜けるようにナマエが部屋から走り去って行った。

一瞬の出来事にコーンとデントは互いの目を合わせている。デントはナマエだと、寝台の方を振り返った。



(…――居ない、)



部屋に居たはずのナマエの姿は無く、コーンとデントは話している最中に隙を見てデントの部屋から逃げ出した様子。

寝台の方に振り返ったデントに、コーンも同じように寝台の方へ視線を向けた。しかし、特に異常等は一切見受けられない室内の様子にコーンは小さく首を傾げている。



「デント、今のはナマエさんでは…」

「…うん、かもね」

「かもねって…」



デントの様子がおかしいとは知りつつも、事情を話そうとしないデントにこれ以上話をしても無駄だと判断したコーンはデントの部屋から立ち去ろうとした。…と、その時、コーンは寝台の端に置かれてあった"ある物"に気付いた。



(…――あれは、確か…でも、何故デントの部屋に…?)



「コーン、もう良いかな…?」

「…え、ええ。何もないなら良いのです。ですが、何かあった時は必ず報告して下さいよ?」

「うん、有難う…」



デントはコーンに礼を告げると、未だコーンが扉の前に居るにも関わらず"パタン…"と静かに扉を閉めた。



(これは本人に直接聞くしかないようですね…)



コーンは、デントの部屋の扉の前で暫く両腕を組んだまま悩んでいた。そして、何を思ったのか廊下の一番奥にある部屋…、ナマエの部屋に視線を向けた。








*****






…――一方、何とかデントの元から逃げ出したナマエは、寝台の上で膝を抱えながら小刻みに震えていた。



何で、何で私がデントさんに…。好きって言ってくれたのは嬉しかった、だけどデントさんが言いたい事が私には分からない…。デントさんと出会って、まだ日も間もないのにあんな風に問い詰められて…どう答えろって言うの…。



「もう、分かんないよ…」



暫くの間、膝を抱えて俯いていると、ある事を思い出したようにハッとした表情を浮かべては勢い良く顔を上げるナマエ。



「ど、どうしよう…卵、デントさんの部屋に忘れて来ちゃった…」



あの時、逃げる事しか頭になくて卵の事をすっかり忘れてた…。どうしよう、今取りに行ってもデントさんが居るだろうし、正直今は会いたくない…。でも、元はデントさんがくれた卵…このまま忘れたままでも問題はないかもしれない…。だけど、大切に育てるって約束したし…。



一度は貰った卵。責任を持って大切に育てると宣言したのはナマエ自身だった故、デントの部屋に忘れたままにするとは良くないと思ったナマエは寝台から降り、もう一度デントの部屋へ戻ろうとした。



(例え何があっても、デントさんのペースに巻き込まれないようにすれば良いんだ…)



心の中で決意したナマエは部屋の扉へ歩み寄り、ドアノブに手を掛ければゆっくりと扉を手前に引いた。





「…ナマエさん、」

『・・・ッ!?』



デントの部屋に向かおうと扉を手前に引けば、扉の向こうには意外な人物が立っていた。






『ど、どうして…貴方が此処に…?』




backnext



×
- ナノ -