『さっむーい…!』
今日も冷え込むイッシュ地方。イッシュ地方に訪れた今年一番の寒波の所為で、防寒着で身を包んでいても完全に寒さを防ぐ事は出来なかった。
「今日も冷えるね…」
ナマエの隣で、そう呟いたのはサンヨウジム・ジムリーダーのデントだった。彼もまた、ナマエと同じように寒さを堪えている様子。
『こんなに寒いと風邪引いちゃいそう…!』
「本当にね。でも、引いちゃ駄目だよ?」
『分かってますー。あ、でもでも!もし、本当に風邪引いちゃったらさ、デントが看病してくれるんだよね?』
冷たい外気に晒され、冷え切ってしまった両手を口許辺りで擦り合わせながら、悪戯な笑顔を向けるナマエ。どうやら冗談で言っているようだ。
そんなナマエに、一度は"キョトン"とした表情を浮かべるデントだったが、直ぐに優しい微笑みを見せた。
それと同時に口許で擦り合わせているナマエの両手をゆっくり握り締めると、デントはナマエの両手をデント自身の口許に移動させ"ハーッ"と息を吹き掛けた。
(デントの吐息、暖かーい…)
「勿論、看病するに決まってるよ。でも、成るべくはそうなって欲しくないな」
『風邪引いて欲しくないって?』
「うん。だって、風邪引いて辛い思いをするのはナマエだから…」
『……じゃあ、さ…』
「ん?」
心配するデントの口許から両手を一度引くと、今度はその両手を広げて、デントに思い切り抱き付くナマエ。突然の出来事にデントは少し驚いている様子。
「ナマエ…?」
『風邪引かないように…、寒くならないように…、デントがしっかり暖めてね?』
抱き付かれたままの状態で、自らの胸元から此方を見上げてくるナマエの行動に思わず"カァ…"と赤面するデント。流石にデントも可愛い恋人からの上目遣いには弱いようだ。
「……ッ!」
『デント、どうしたの?顔真っ赤だよー?』
(…自覚、なし…か。流石に今のは少しキたな…)
ドキドキと高鳴る心臓。それはもう煩く感じるくらいに。この心臓のドキドキがナマエに聞こえてはいないだろうか、と思うと更にドキドキしてしまう。何という悪循環…。
しかし、そうさせるのは目の前の恋人。そして自分自身。ナマエが居るから、僕が居るから、このドキドキが生まれるんだ。
「…何でもないよ」
本当は「何でもない」なんて嘘だけど、今だけは許して欲しい。
デントは未だに抱き付いたままの柔らかなナマエの身体を抱き締め返し、ナマエの肩口へ隠すように顔を埋めた。
『デント、暖かい…』
「ナマエも暖かいよ」
冬 だ け の 暖 か さ
…――ナマエが僕の傍に居てくれれば、本当は寒さなんて微塵にも感じないのかもしれない。
--END--
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