育て屋を出た後、真っ直ぐ街へ戻ったデントとナマエ。ジムに戻るとレストラン内はガラリとしており、誰一人居なかった。



『あれ、誰も居ない…?』

「うーん、多分こっちかな」


そう言って、デントはナマエの手を引きレストランがある場所とは違う部屋へと向かった。











「バオップ!炎のパンチ!」

「バーオォオッ!!」



デントに連れて来られた部屋では熱いバトルが繰り広げられていた。初めて見るジム戦にナマエは驚きの表情を隠せない様子。



『わ…!ポッド君がバトルしてる!』

「やっぱり、ジムに挑戦者が来てたみたいだね」

『やっぱりって?』



デントが紡いだ言葉の意味が分からず、思わず聞き返すナマエ。すると頭上から黄色い声援が聴こえてきた。



「「「キャーッ!ポッド様、素敵ーッ!!」」」



黄色い声援にビクッと肩を跳ねさせたナマエは声援が聴こえてくる頭上を振り返った。どうやら、二階からジム戦を観戦出来るような仕組みになっているようで、その二階には多数の女性達がポッドに声援を送っていた。しかも、女性達はチアガールの衣装に着替えている。



『な、なな…ッ!』



(何アレ?!あの人達、皆ポッド君の応援で…?にしても、力入り過ぎじゃ…!)



「驚いた?」

『そ、そりゃ…』

「普段からジム戦はこんな感じなんだよ」

『し、集中出来るんですか?』

「慣れかな?」

『慣れって…』



ジム戦って真剣勝負なのに、こんなにキャーキャー声援送られてたら集中出来ないでしょ…!特に挑戦しに来たトレーナーさんが!!


ナマエはサンヨウジムに挑戦しに来ていたトレーナーを確認するように視線を向けた。相手は新米トレーナーなのかバトルには不慣れの様子だった。さらにポッドへの黄色い声援に集中出来ていない様子で思うようにポケモンへ指示が出来ていなかった。



(嗚呼、あのトレーナーさん可哀想に…)



「オラオラ!そんなんじゃ俺のバオップには勝てっこないぜ!バオップ、火炎放射!」

「バオーッ!」

「よ、避けろ!ポカブ!」

「カブッ!」



挑戦者は持ちポケモンのポカブに避けるよう指示を出すも、バオップの動きの方が一足早かったせいか避け切る事が出来ず、バオップの火炎放射を浴びてしまった。



「ポカァア…!」

「ポ、ポカブッ!何で避けないんだよ!?」

「まだまだ甘いぜ!バオップ!もう一度、炎のパンチ!」

「バオォオッ!」

「ポカーッ!」



火炎放射を浴びたポカブが一瞬怯んだ隙に再度バオップの炎のパンチがポカブに襲い掛かる。バオップの渾身の一撃だったのか、炎のパンチを受けたポカブは戦闘不能となりフィールドで倒れ込んでしまった。



「ポ、ポカァ…」

「ポカブ!起きろ!」

「ポカブ、戦闘不能!勝者、ジムリーダー・ポッド!」



ポカブが戦闘不能になった事を確認した審判役のコーンは試合終了の合図を掛けた。挑戦者は負けてしまった事に至極落ち込んだ様子。そんな挑戦者を元気付けるかのようにポッドが挑戦者の肩をポンと叩いた。



「なかなか良い試合だったぜ!だけど、まだまだ俺のバオップには敵わねェよ。もっと強くなったら、また俺とバトルしようぜ!」

「…はい、有難う御座いました…」

「おう!俺の方こそサンキューな!」



ジム戦に負けてしまった挑戦者はポカブをモンスタボールに戻すと、ポッドに軽く一礼しジムを去って行った。それと同時に再び黄色い声援が室内に響き渡る。



(う、うるさい…!というか、これ絶対集中出来ないって…!)



「お疲れ様、ポッド」

「お、デントじゃねェか!帰ってたんだな?ナマエちゃんもお帰り!」

『た、ただいま…というより、ポッド君も強いんですね…』

「当たり前だろ!俺様のバオップは無敵なんだからよ!」

「何言ってるんですか。先日来られた挑戦者にボロ負けしていたのは何処の誰です?」

「あ、あれは…俺が手を抜いてやったんだよ…!」



コーンに痛いところを突かれ、表情を強張らせるポッド。



「取り敢えず、バッジは死守出来たんだし良いじゃないか」

「だ、だよな…!」

「そういう事にしておきましょう。それより、ナマエさん」

『は、はい…!』

「その卵はどうされたんですか?」



先程から気付いてたのか、コーンはナマエの腕に抱えられた卵を不思議そうに見つめていた。



『あ、これは…その、デントさんから頂いた卵で…』

「デントに?一体どういう事です?」

「どうだって良いじゃないか。僕がプレゼントしたかったから、ただそれだけだよ」

「つーか、何の卵だよ?」

『産まれてこないと分からないそうです』



ポッドは「ふーん」と納得しながら、ナマエに抱えられた卵をツンツンと軽く突いている。しかし、コーンは何処か納得のいかない様子で目を細めてはデントに鋭い視線を向けている。

コーンの鋭い視線が気になったのか、デントは軽く首を傾げた。「どうかした?」と言葉を向けられたコーンは「いえ、別に何も」と言葉を返し、視線をデントから外した。



「早く産まれてくると良いな!何ならバオップに温めさせるか?」

『バオップにですか?あはは、それも良いかもですね』



楽しそうに笑い合うナマエとポッド。デントはそんな二人を見るなり、二人から視線を背け心の中で軽く舌打った。




(…――ポッド、か…)




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