『こ、これって…!』
「うん、見ての通り。僕からナマエさんへのプレゼントだよ」
『え…!』
君 を 護 る た め に
育て屋のお婆さんが抱えていたのはポケモンの卵だった。だが、驚いたのはこの事だけではなく、この卵がデントさんから私へのプレゼントだと言うのだ。
「ほれ、大事に育てるんじゃよ」
そう言って、お婆さんはケースに入った卵を押し付けるような形でナマエに譲り渡した。
『え、でも…!』
「昨夜、デント君から連絡を貰ってのぅ。孵化中の卵を譲って欲しいと頼まれたんじゃよ」
『また、何で…?』
「んー、何でだろうね」
(いや、知りたいのは私の方なんですけど!でも、本当…何で私に卵なんか…?)
「タイプもデント君の指定した通りじゃからのう」
「有難う御座います」
「礼なんて良いんじゃよ」
『あの、本当に私が貰っても良いんですか…?』
「勿論じゃよ。お前サンのような美人なら産まれてくるポケモンも幸せじゃろう」
『び、美人…?!』
美人という言葉に"カァッ…"と頬を赤く染めるナマエにデントは小さく微笑んだ。
『何笑ってるんですか!酷いですよ、デントさん!』
「いや、美人って言われて顔真っ赤にしてるから…」
『そりゃ、美人なんて言われたら恥ずかしいに決まってるじゃないですか!』
「あはは、ゴメンゴメン。でも、僕も美人だと思うけどな」
『な…ッ!?』
(デ、デントさんまで…!絶対にからかわれてる…!もう、何で私ばっかり〜…)
「それじゃ、僕たちはそろそろ失礼しますね」
「おや、もうかい?もう少しゆっくりして行きなされよ」
「いえ、ジムと店の事もありますし…今日は失礼させて頂きます。また今度、ゆっくりお話聞かせて下さいね」
「そうかい、残念じゃのう。帰り道には気を付けるんじゃよ」
「はい、お気遣い有難う御座います。…ナマエさん、行こう」
『え、あ…はい!』
ナマエは貰った卵を落とさぬよう、しっかりと抱えた。
「お婆さん、本当に有難う御座いました」
『あ、有難う御座いました!大事に育てます!』
「うむ、またのう」
育て屋のお婆さんに別れを告げ、デントとナマエは育て屋を後にした。
『あの―…』
「ん?」
『この卵、何のポケモンの卵なんですか?』
「さぁ、僕にも分からないよ」
『え!?』
卵を受け取ったものの肝心なポケモンが何なのか分からない。デントに聞けば分かると思って聞いてみたが、デントも知らない様子。
「産まれてからのお楽しみって事で」
『また、それですかー?』
「でも、本当に僕も知らないんだ」
(何のポケモンかも分からない卵を大事に育てろって言われてもなぁ…。まぁでも、私が親になるんだから頑張って育てないと)
「…迷惑だったかな?」
『え…?』
思い掛けないデントの言葉に不思議がるナマエ。
「いや、その…」
『・・・?』
「プレゼントとか言って、卵押し付けちゃったから…」
デントの言葉を聞き、抱えていた卵に視線を落とすナマエ。数秒程、卵を見つめ再びデントに向き直れば、ナマエは小さく首を横に振りニコリと微笑んだ。
『迷惑なんて思ってないです。確かに最初は吃驚しちゃいましたけど…』
「本当に?」
『はい!大切に育てます』
「良かった、安心したよ」
先程のナマエが向けた笑顔にデントは少しだけ胸をドキドキさせる。ただ、ナマエには気付かれぬよう顔には出さなかった。
(まだ早い、早過ぎる。この気持ちをナマエさんに知られてしまうのは…。)
…――ナマエへの想いを胸のうちに秘め、デントはナマエを連れてサンヨウシティへと戻った。
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