『ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ――…!』
ドタドタと足音を立てながら、慌てて城の廊下を猛ダッシュする一人の女魔導士。時折、すれ違う隊員が足を止め敬礼をしている。普段なら敬礼に応え軽い挨拶を交わすのだが、今はそんな事やっている場合ではなかった。
『…――ッ!』
目的の部屋に辿り着くと、その扉をバンッと勢い良く両手で開く。
「遅い」
『ハァ、ハァ…ッ』
「ほんっと時間にルーズですねぇ、ナマエちゃん」
部屋で待っていたのは同じ魔導士であるケフカ。魔導士と言ってもあっちは人造魔導士、ナマエは元より魔力が高い純粋な魔導士だ。
『ち、ちょっと遅れただけでしょ!』
廊下を急いで走って来た為か息が上がってしまっている。魔力はあっても体力はあまり無い方だった。
「30分近く遅れといて何が"ちょっと遅れただけでしょ!"なわけ?アンタ、いつも遅れて来るじゃないですか」
ケフカは先程のナマエの言葉をマネしてみせる。
『し、仕方ないでしょ。昨日も遅くまで任務に当たってたんだから!ケフカみたいに気分で好き勝手出来ないのよ』
「それとこれとは別。それに今日はぼくちんと一緒に過ごしたいって言ってきたのはナマエでしょ」
『そ、そうだけど…』
経緯は違えど同じ魔導士同士、お互いに惹かれ合う部分もあり、二人は恋仲である。階級的にはケフカの方が若干上だが、ナマエも然程変わりはなかった。
「ま、ぼくちん優しいから許しちゃうんだけどね」
『ハッ、何処が優しいって?聞き間違いかしら』
ケフカの言葉に悪態を吐くナマエ。ある程度経ち、息も整ってきたのか少し屈んでいた態勢を戻し腕を組めば壁に寄り掛かってケフカを嘲笑ってみせる。
「相変わらずムカつく女だねぇ」
『褒め言葉かしら?』
「あーそうそう、褒めてる褒めてる。すっごーく褒めてる」
ヒラヒラ、と片手を上下に動かしナマエをあしらうケフカ。
「それはさて置き…――ナマエちゃん、早くこっちに来てちょーだいよ」
ケフカが部屋に備え付けられている大きなソファーに腰掛けると、こっちに来るよう両腕を広げ促した。
『何だかんだで、ケフカも私に早く会いたかったんでしょ?』
凭れ掛かっていた壁から背を離せば、真っ直ぐにケフカの元に歩み寄るナマエ。広げられた両手に納まる様にケフカの膝へ向かい合わせに座る。
「ナマエちゃん、太った?」
『そうだったらケフカの所為よ』
「ぼくちん?」
『いつも甘い物ばっか間食させるじゃない』
「じゃあ食べなきゃ良いじゃん」
『いや、食べさせて来るの拒むとスネて何しでかすか分かんないでしょ』
以前、一度だけ拒んだ事があった。その時はこの部屋ではなかったが、部屋に人ひとり通れる穴が空いたり本棚が倒れて来たり、それはまぁ酷かった。
「まぁ、太ってても良いですよ。ぷよぷよなナマエちゃんもきっと可愛くて気持ち良いでしょうから」
『…どうだかね』
今は未だ引き締まっているナマエの横腹をムニムニとやんわり摘まんでくるケフカ。少しだけ、くすぐったかった。
「ナマエちゃん、今日はもう予定ないんでしょう?」
『うん、何もない』
「じゃあ、今日は存分にナマエを堪能出来るってわけですね」
ケフカが耳元に唇を近付けてくる。言葉の合間に漏れる吐息が吹き掛かると、身体の芯がゾクリとした。
『・・・ッ、』
「今日はもう帰しませんよ」
『ケフ、カ…』
「ナマエちゃんが欲しくて欲しくて、ぼくちん爆発しそうだったんですから」
『…私だって、』
「ぼくちんの事、早くナマエちゃんで満たして下さい」
そう言ってケフカはナマエが居なかった時間の穴埋めをするかの様にナマエの唇を貪り始めた。
欲 求
…――広い室内に甘く熱い吐息が響き渡る。長い長い夜が始まる。
--END--
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