快晴の空、熱い日差しが注ぎ込む。サンヨウジムでは今日も日差しに負けないくらいの熱いバトルが繰り広げられていた。



『お、相手はデント君を選んだんだ。ヤナップ相手にポカブ…相性ではデント君の方が部が悪いけど、相性だけで勝てるデント君じゃないからなぁ…』



そう語るのはサンヨウジムで手伝いをしているナマエ。ナマエはデントの恋人でもある。これから溜まりに溜まった洗濯物を干しに裏庭へ向かっているところだった。その途中、バトルルームから歓声が聞こえて来た為、少しだけ立ち寄ったのだ。



『どっちが勝つか見たいけどなぁ――…あぁ、ダメダメ、先にこれ干してしまわないと!』



観戦したい気持ちを抑えつつ、ナマエは洗濯物が乗ったカートを押し歩を急がせた。休日明けで汚れ物も多く早いうちに干してしまわないと夕方までに乾かない。ナマエは裏庭にカートを運ぶと手際良く洗濯物を干していく。



『これだけ晴れてば全部乾くでしょ』



パンパン、と皺を伸ばすように布製のテーブルクロスを叩く。洗濯物の中には三つ子達のシャツやベスト等も含まれていた。



「おーい!ナマエー!」

『…――ん?』



洗濯物を干していると、突如背後から名を呼ばれた。振り返れるればポッドが此方に走って来ている。



『ポッド君、どうしたの?』

「いや、さっき偶々見かけてさ。洗濯物干してんだよな?量多そうだし、手伝うぜ」

『だ、大丈夫なのに!…ありがとう、助かるよ』

「良いんだって、気にすんな!それよりさっきデントの事見てただろ?」



ポッドはカートから洗濯物を取り出すと空いている竿に干していく。



『え、あー…うん。まだ続いてるでしょ?』

「ああ、続いてるぜ。でもデントの勝ちだな、ありゃ」

『そっかー、デント君は強いもんね』

「俺も強いぜ?あ、そうだ。バオップも手伝ってくれー」



そう言ってポッドがモンスターボールを取り出せば、バオップがボールから放たれる。



「オップ!」

『ごめんね、バオップ。お手伝いしてくれる?』

「バオッ!」



ナマエのお願いにバオップは任せとけと言わんばかり腰に手を当て胸を張っている。それを見たポッドも「サンキューな!」と言ってバオップの頭を撫でた。



「後はこれだけだな。ナマエ、これ終わったらデントのとこ行くのか?」

『うーん、どうしようかなぁ。まだ掃除も残ってるし…』

「掃除とか明日やれば良いだろ?少し汚ぇくらい、どうって事ねぇって、な?」

『コーン君が聞いたら怒られそうだね…』

「聞いてねぇから良いんだよ!」



二人が手伝ってくれたお陰もあり、予定より早く干し終わった。ナマエは空になったカートを裏庭の隅に移動させようとカートに手を掛けた。…――その時だ、突然強めの突風が吹き三人を襲う。



『きゃあッ!』

「うおッ!」

「バオォッ!」


三人は同時に短い悲鳴を上げる。それと同時に突風に煽られ物干し竿が軸ごとナマエ目掛けて倒れて来たのだ。



『…――ッ!』



一瞬の事で避ける事すら出来なかったナマエ。ガシャン、と大きな音を立てながら、それはナマエを巻き込んで地面へと倒れてしまった。



「ナマエッ!」



突風はほんの一瞬だけだった。ポッドは竿の下敷きになっているナマエを見つけると慌てて傍に駆け寄った。



「おい、ナマエ!大丈夫か!?」

『ぅ、大丈――ッ痛!』



大丈夫、と言おうとしたナマエだったが少し身体を動かすと額と腕に痛みが走った。ナマエの額からは血が滲み出ている。



「血が出てんじゃねぇか!ナマエ、手当てするから部屋戻るぞ!バオップはデントを呼んで来てくれ」

「バ、バオッ!」



ポッドから指示を受けるとバオップは大きく頷き、デントを呼びに一足先にジムの中へ戻っていった。ポッドはナマエの身体に倒れた竿を退けると、ナマエの身体を抱き上げた。



『ご、ごめんね…』

「ナマエは悪くねぇだろ、部屋まで運ぶからよ」



ポッドはナマエを抱え、急いでジムの中へ向かった。





*****




ナマエの手当てをすべく、ポッドは客間のソファーにナマエを寝かせる。救急箱を用意し、ガーゼで額に滲む血を拭い取った。



「大丈夫か?…って痛いに決まってるよな、」

『平気だよ、ありがとね…』

「気にすんなって」



ポッドが手当てをしていると、バタバタと足音が近付いてくるのが聴こえた。足音が止まったと同時に息を上げたデントが客間に現れた。


「ナマエさん!」

『デント君…!』

「おっと、王子様登場だな」

『ポッド君、本当にありがとうね』

「良いんだって!じゃあ、後は頼んだぜ、デント」

「ありがとう、ポッド」



バオップに呼びに行かせていたデントが駆け付けると、ポッドは手当てを一旦止め、ナマエから離れると客間を後にした。




「一体何が…」

『いきなり強い風が吹いてきて…それで竿が倒れてきちゃったの。それでこの有様で…』

「怪我は頭だけ?他に痛む処は?」

『えっと、あとは腕を地面にぶつけたくらいかな…』

「…良かった、大事に至らなくて」



そう言ってデントはナマエの身体をギュッと抱き締めた。心配させてしまったのだと、ナマエは申し訳ない気持ちで一杯になりながらも痛くない方の手をデントの背に回した。



『ごめんね、デント君…』

「ううん、謝らないで。ナマエさんが悪い訳じゃないから…それより手当てしないとね、」



デントは傍にあった救急箱から消毒液を手に取ると、ガーゼに染み込ませ額の傷口に当て消毒した。



『し、染みる…』

「我慢して、すぐ終わるから」

『は、はーい…』



しっかり消毒をし、早く治るように傷薬を塗布する。その上から綺麗なガーゼを被せテープで固定した。幸いぶつけた腕は打撲だけで済んでいた。



『ありがとう、デント君』

「どういたしまして、本当に大丈夫かい?」

『うん、大丈夫。それよりバトルは…?』

「バッジは守ったよ。…終わった後、バオップが血相を変えて駆け付けて来たから、聞けばナマエさんに何かあったんだって…それで慌てて此処に駆け付けたんだ」

『そうだったんだ…。ごめんね、疲れてるのに…』

「僕は平気だから。それよりもナマエさんには早く良くなって貰わないと」


ソファーに横たわるナマエの髪を梳かすように撫でるデント。それが気持ち良かったのか、ナマエは薄っすらと瞼を閉じる。


『デント君にこうされてると、凄く落ち着く…』

「それは良かった」

『傍で見たかったなぁ、』

「じゃあ、次は必ず」

『手が空いてれば見れるんだけど…』

「別に空いてなくても良いよ。僕を優先して?」



少しだけ悩んでは小さく首を縦に頷かせるナマエ。



「ナマエさん、」

『ん…?』

「もう怪我なんてしないで、お願いだから…」

『デント君…』



ナマエの手をギュッと握り締めながら、デントは顔を俯かせた。余程心配だったのだろう、握る手は少しだけ震えている。



「今日みたいに防げない事もあるかもしれないけど、でもやっぱりナマエさんが怪我をしたり傷付いたらするのは嫌だから、」

『…うん、気を付ける。だから、顔を上げて?』



そう促されて俯かせていた顔を上げるデント。それと同時に柔らかく暖かい物がデントの額に触れた。



「ナマエさん…ッ、」

『えへへ、心配掛けちゃったお詫び…――なぁんてね』



口付けられた額を片手で抑えながら、頬をピンク色に染めるデント。突然の事だったが、その表情はとても嬉しそうだ。



「ず、ずるいなぁ…」

『そんな事ないって――…んぅ、』



今度はナマエの唇にデントの唇が重なる。暖かく優しい、触れるだけのキス。すぐに離れるとナマエは顔を真っ赤にして驚いている様子だった。



「するなら、ちゃんとこっちにしないとね」

『も、もう!デント君の方がずるいんだから…ッ』

「どっちもどっちかな」

『…そうだね、ふふ』



口付けされた唇にそっと触れて見せては更に笑顔を見せるナマエ。怪我が治るまでは2週間くらい掛かるだろうけれど、普段と変わらず明るい笑顔を見せるナマエにデントは安堵した。



「今夜はナマエさんのずっと傍に居るから」

『ずっと?デント君が私と…?』

「うん、怪我人だしね。ナマエさんが無理しないように見張っておかないと」

『む、無理なんて…するかもだけど…』

「だろう?だから、今夜はずっと一緒だよ」

『…――うん、』





両 想 い と 片 想 い





「いやー、損な役回りだよなー。そう思わねぇか、バオップ?」

「バオッ」



一方で、デントと入れ替わるように退出したポッドは、倒れてそのままになっていた竿と洗濯物を元通りにしていた。幸いにも洗濯物は汚れておらず、そのまま干して問題なさそうだ。



「あーあ、デントが羨ましいぜ」



ポッドはナマエに片想いをしていた。デントとナマエが恋人同士な為にその気持ちは伝える事は出来ないが、その代わり何処かでナマエの為に尽くそうと心で決めていた。



「よーし、これで全部だな!また夕方な、バオップ!」

「バーオッ」



ポッドの言葉に大きく首を縦に振るバオップ。ポッドの肩に飛び乗れば、そのままポッドと共にジムの中へ戻っていったのだった。



--END--

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