『デント、ただいまー』
「あ、おかえり。ゴメンね、買出し頼んじゃって…」
『ううん、良いの!三人とも忙しそうだし…』
「いつも有難う」
『どう致しまして!買って来た物、冷蔵庫に仕舞って来るね』
私がしてあげられる事って限られてるからなぁ…。
デント達はジムリーダーだし、その上レストランの経営だってしてる。私はジムリーダーじゃないし、美味しい料理を作ってあげる事も出来ない。
出来る事と言えば、接客と買出し…あとは皿洗いとか片付けくらいかな…?デント達が成るべく疲労を溜めないよう、遣れるだけの事は何だってしてあげたい。
ナマエはキッチンへ向かうと、購入して来た食材を冷蔵庫に仕舞い込んだ。冷蔵庫の中はきちんと整理整頓されており、食材が取り出し易いようになっている。
これはナマエからデント達へのささやかな気配りだった。
『これでよし、と…』
「ナマエさん!」
『あ、コーン…どうかした?』
「申し訳ないんですが、ジム戦を申し込まれてしまったので、お客様からオーダーされてあるドリンク類を運んでおいて貰えませんか?」
『相変わらず大変だね…。うん、分かった!任せといて!』
「いつも済みません…」
『良いんだって!…あ、審判は誰がやるの?デント?』
「いえ、審判はポッドがします」
『じゃあ、デントは残るわけか…』
「はい。…それじゃ、コーンは行きますね」
『うん、頑張ってね!』
ジムへの挑戦者を待たせていた為、コーンはフィールドへと急いだ。
残されたナマエは頼まれていたドリンク類を早速作り始めた。料理は出来ずとも飲み物くらいは用意出来る。
ナマエはテキパキと手際良くドリンクを用意すると、トレーに均等に並べホールへと向かった。
(えーっと…サイコソーダとミックスオレは二番テーブルか…)
『大変お待たせ致しました。サイコソーダとミックスオレです』
オーダー品をそれぞれのテーブルへ運び終わると、再びキッチンへ戻るナマエ。
「あ、ナマエ…」
キッチンへ戻ると、先程までは居なかったデントが居た。
『デント』
「もしかして、飲み物運んでくれた?」
『あ、うん…コーンに頼まれてたから』
「そっか、僕が運ぶつもりだったんだけど…ゴメンね?」
『ううん、飲み物くらいなら作れるし平気だよ』
「本当、ナマエが居てくれて助かるよ」
不覚にも一瞬だけ"ドキッ"としてしまった。いつも言われている言葉とそんなに変わりないのに…。
『あ…案外、私が居ないとデント達やっていけなかったりして!』
……なんて事を言ってんだ私は…。私が居なくてもデント達は三人でやっていけるのに。
「うん、そうかもしれない」
『え…?』
…――突然、ふわりと抱き締められた。勿論、デントに…。
うん。一体何が起こったのかサッパリ分からない。
『あ、あの…デ、デント…?』
「ん…?」
『何で抱き締められてるんでしょうか…?』
「僕が抱き締めたくなったから」
デントくーん、それ答えになってないんですけどー。
『は、離して…クダ、サイ…』
「まだ離したくない」
デントは"離したくない"と言って、ナマエの言葉とは反対に抱き締める腕の力をさらに強くした。離す気など更々ないように思える。
『デントってば…』
「好きだよ」
『うん、分かったから離して』
「本当に分かってる?」
『分かってるってば。だから離し、て……え…?』
(今…、もしかしなくても"好き"って言った…?)
『えッ!嘘ッ!?タ、タンマ…!今のナシ!!』
「ゴメン、無理」
『うぇえええッ!!?』
「…ナマエ、声大きい。お客様居るから声は抑えて…」
『あッ…しまった…!』
デントから注意されると"ハッ"としながら口許を両手で塞ぐナマエ。
「もう一度言うね」
『何をデスカ…』
デントは三秒程だけ目を瞑り"スゥ…"と小さく息を吸い込んだ。
「ナマエの事が好きだよ」
いつも僕達の為に頑張ってくれるナマエの姿を僕はずっと見ていたんだ。
次第にナマエ自身に心惹かれ、好きという気持ちをいつ伝えようか常日頃から悩んでいた。
そんな時にナマエがくれたんだ。僕の気持ちをナマエに伝えるチャンスを…。
「この先もナマエが居ないと少なからず僕はやっていけない…」
『デ、ント…』
「だから、ずっと傍に居てくれないかな…?」
まさか、デントから告白されるとは思わなんだ…。
だけど、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。寧ろ"嬉しい"という気持ちになれた。
きっと…私もデントと同じで、デントとずっと一緒に居たいんだ…。勿論、コーンとポッドとも一緒に居たい。
『うん、ずっと傍に居るよ』
「…ナマエ」
『三人の中で一番特別なのはデントだけだよ』
「それって本当?」
『本当です。でも、コーンとポッドには内緒だよ?』
唯 一 無 二 ノ 存 在
…――嗚呼、僕はやっぱりナマエの事が大好きです。
--END--
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