「………………」
「な、なんですか先輩?」
「…君はいつもお昼ご飯はパンを買っているんだね。」
「え…まあ…お母さんもお弁当作ってくれないし…ん?違う。違いますよね?カヲル先輩が私にいつも買ってくるようにパシってるから「自分では作らないのかい?」
「え…だって朝眠いし作ってる時間ないし…」
「もっと早起きしなきゃだめじゃないか。いつも遅刻ギリギリの電車で。」
「そうですよね…いや違う。違います、先輩が深夜に嫌がらせに電話かけてくるから「料理は出来ないのかい?」
「………。あんまりしないです。下手ですし。」
「ふうん…」
「…………」


まずい…。まずいぞこの流れは。これはまさか、


「じゃあ、明日から作っておいで。…もちろん僕の分も。命令だよ?」
「いっ……いやいやいやいや!!無理です!先輩に食べさられるようなもの作れないです!無理です!」
「楽しみにしているよ。」


そう言ってチョコチップメロンパンの袋(ゴミ)を私のポケットに入れると、ひらひら〜っと手を振りさって行った。



…………困った。困ったぞ。絶対不味いって言われてお弁当頭からぶっかけられるんだ。美味しいものなんて作れないよ…どうしよう。


どうしようもこうしようもない。命令だから仕方がない。最善をつくしてやるしかない。


「…」

本屋で買ってきたお弁当の本とにらめっこして、決意を固めると私はキッチンに向かった。





………………



次の日、一生懸命作ったお弁当と、頭からお弁当ぶっかけられた場合のタオルや着替え等を完璧に準備し私は屋上に向かう。


「さあ、なまえ。お弁当を渡してもらおうか。」
「………ほんとに食べるんですか?」
「さあ?」
「……………………やっぱりこんなものカヲル先輩にあげれるようなものじゃ、あっ!」
「ふうん、可愛らしいお弁当箱みたいだけれど、中にはどんなゲテモノが詰まってるんだい?」
「ちょっ!ちょ…!まっ!」
「いただきます」
「たっ食べない方が〜〜〜!!」


カヲル先輩はひょいっと私からお弁当を奪い取ると、私が止めるのも聞かずパカッと開けてぱくっと…


「…………………」
「…………………」
「まずいね?」
「いやあああああああああああごめんなさいいいいいいいいいいいいい」
「自分で下手だって言うだけあるね。でも自覚してるなんて偉いね?」
「ひいいい…食べなくていいです…!そのまま持って帰るんで返してくださいいいい…」
「何を言ってるんだい。僕にお昼ご飯抜けと言うのかい?ひどいなあなまえは。」
「えっ食べてくれるんですか…ぎゃっ?!ううっ…お弁当箱の蓋の裏側のベタベタになってる方を顔になすりつけるのはやめてくださいい…」
「なんでこんなに不味い料理が作れるんだろうね。シンジくんとは大違いだなあ。」
「ひっ、人と比べないでください…!」
「…卵焼きが甘い。」
「…えっ?あ…う、うちではいつもそうなんです…。」
「へえ………」
「……あの…ほんとに不味いと思うんで、食べない方が」
「黙ってて。」
「えっ?!えっ?!…………はい。」


そのあとも黙々と先輩は私のお弁当を食べ続け、


「ごちそうさま。」
「……………………」
「何だいそのアホみたいな顔は。あ、みたいじゃなくてアホなんだったねごめんよ。」
「い、いや、全部食べてくれるなんて…。」
「勿体ないだろう?なまえみたいな料理の下手なリリンに用いられてしまった材料達が可哀相じゃあないか。」
「は、はあ…」
「それに、甘い卵焼きだけは美味しかったと思うよ?」
「はあ……………………えっ?」
「だから、これからも僕に夜中いやがらせ受けて眠くても、早く起きて毎日作ってくるんだよ?僕のために。」
「……………………………」
「……返事は?」
「はっはい!!」
「良い子だね。」


そう言って私に空のお弁当箱を手渡すとにっこり笑って私を見つめた。
その目はやっぱり優しくて綺麗で、どきどきする。目が逸らせない。


なんだかいい香りもする…紅茶みたいな……紅茶?


「っっぎゃあああああああああああああ!!!!」


先輩はいつの間にか私が用意した水筒の中身…紅茶を淹れてきたんだけど、それを私の頭にそのままダバダバかけていた。


「でも…ちゃんと上達しないと許さないからね?」
「び、びしょぬれなんですけど…」
「返事は?」
「は、はいい…上達できるようがんばります…」


…やっぱり、たまに先輩が優しい顔してくれると思うのは、私の勘違いなのかな?先輩の演技なのかな?
先輩に優しくされるとどうしたらいいかわからなくなってしまうから、まずいって言われてもいいやと思う私ってどうかしてるみたいだ。









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