「もしもし?来栖だけど」
「もしもし?薫くん?凄い!私も今かけようとしてたとこなの!」
「えっなんで、どうかしたの?」
「今日の宿題の最後の問題が全然わかんないよ〜助けて優等生」
「……そんなことだろうと思ったけど」

クラスメイトの薫くんと電話するのが近頃の日課だ。


「よくこんな問題わかるね〜流石医学部志望〜」
「え〜関係あるかなそれ。なまえが授業中いつも寝てるからわからないだけでしょ?」
「皆寝てるも〜ん私だけじゃないも〜ん」
「嘘だよ、隣の席になってわかったけど、なまえは寝過ぎ。」

薫くんとは隣の席になってからよく話すようになった。それまでは同じクラスでも話したことなかったのに。(私なんてこの進学校じゃ成績悪いバカだし。)
人気アイドル来栖翔の双子で、人気者で頭も良いあの来栖薫くんとこうして電話してるなんて。

「私だって寝る気はないんだよ、先生達が催眠術使うのがいけないんじゃん。」
「先生達はそんなことできないよ。
それになまえは僕と電話してる最中にもよく寝るし、突然返事しなくなるとか戸惑うからやめてよね」
「てへっ」
「別に可愛くないから」
「ごめんって〜気を付けるよ〜」
「そんなこと言って今日もどうせなまえが先に寝ちゃうんだよ」

そして寝オチするのも私の日課になりつつある。

「あっあれ今何時?翔ちゃんの番組そろそろだ!なまえも見て!テレビつけて!」
「あ〜おにいさんの…はいはいじゃあつけましょうかね〜」
「何そのめんどくさそうなの」
「動くの面倒だもん」
「なまえめんどくさがりすぎ!ちょっとは動いた方がいいし翔ちゃん見た方がいいよ」
「ちゃんと今つけたよテレビ。ブラコンが怒るからね。」
「その呼び方に怒るよ?あっ始まった翔ちゃん出てきた!」
「いつ見てもそっくりだな〜」
「…なんか翔ちゃんちょっと疲れてそうだな…ちゃんと寝てるのかな?ちょっと後でメール入れよう…」
「流石ブラコン。優しいねブラコン。」
「学校でもそんなだったらほんとに怒るからね。」
「ただの事実なのにー」
「なまえも女子でしょ?もっと翔ちゃんみたいなアイドルみてキャーキャー言ったりしないの?ていうか翔ちゃんを誉めなよ。」
「え、いやまあ…そりゃいいと思うよ?イケメンだとも思うし…でもそんなこと言ったら双子の薫くんも誉めてるみたいじゃん。翔くんめっちゃカッコイイ!イケメン!とか薫くんにキャーキャー言ってるみたいでなんか…あれなんだもん。」
「なんだそれ。翔ちゃんと僕じゃ全然違うと思うけど…。」
「はたから見たらそっくりで真似されたら見分けつかないって。」
「ふーん…」

翔くん好き好き超かっこいい!とか言ってたら完全に薫くんのことも言ってるのと同じようなもんじゃん!
クラスにそんな女が居たら薫くんどんな気分なんだろう…
それにあんまりキャーキャー言っててもミーハーみたいじゃん。
そりゃ、まあ、お兄さんも薫くんも、かっこいいとは思うけど…

…ぷっ
テレビを見てたらお兄さんが小さいのをからかわれて怒っていた。

「…お兄さん面白いね〜」
「翔ちゃんはバラエティも完璧だよ。流石だね!」
「そ〜だねえ〜。ていうか、隣の、那月くんだっけ、背めっちゃ高くない?」
「あ〜…那月さん、確かに凄く大きいよ。翔ちゃんが小さいのもあるけど。」
「へ〜会ったことあるんだ!凄〜い。」
「なまえは背高い人が好きなんだ?」
「うん、まあ。かっこいいよね〜。薫くんはやっぱり双子だからお兄さんと同じなの?」
「実は何故か僕の方が高いんだ〜」
「へ〜弟なのにね。あ、双子に弟とかあんま関係ないのかな。」
「ね〜」

かっこいいし、素敵だなとは思う。でも好きとかじゃなくて、だって薫くんは人気者だし…例えそういう感じになっちゃったとしても私なんかと釣り合ないのは一目瞭然だし、私は諦めるんだろうな多分…。

「なまえ?聞いてる?今の翔ちゃん見てた?おーい、…もしかして寝たの?」

黙ってたら受話器の向こうから薫くんが呼んでた。
ちょうどいい、さっきも私が寝オチすると戸惑うとか言ってたし、いつも私が寝たあとどうやって電話切ってたのか気になってたんだよね。
寝たフリしてみよ。
そう思ってそのままだんまりを継続した。

「もしもし?なまえ?…ほんとに寝たの?……寝てるな。」

薫くんは一人で話かけてくる。
いつもこんなに一人で喋らせてたのかと思うとなんか申し訳ないなあ。寝たふりも罪悪感…でも一人でもしもし?とかおーいとか言ってるのは面白いや、ぷぷぷ。

「やっぱり先に寝るじゃんか、全く……………好きだよ、なまえ。また明日ね、おやすみ。」


………………え?


そうしてぷつっと電話が切れた。

「…うそ」

切れた受話器を耳にあてたまま呟いた。

今なんて?



……………今夜は眠れそうにない。













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