夢を見る


(なぎさせんぱい……っ!)


夢の中で彼女は目に涙をためて僕の方を見てくる。
真っ赤にした顔を苦しそうに歪めていた。
嫌だとか、やめてくださいとか、必死に伝えようとしてくるけど頭の上で手を抑えつけてしまえば全然抵抗できてないし、悔しそうにする顔は…逆にそそられてしまう。
本当は嫌じゃないくせに、凄くいやらしい顔してるよ、泣いて懇願すれば許してあげるよ、痛いかい?じゃあやめてあげない、とか、意地の悪い言葉をかけたくなってしまう


(…っきらい…!だいっきらい!)











「………またこの夢か…」


最近こんなのばっかりだ。こんな夢を見るなんて、自分にもそういう欲求があったのに驚く。
でも、いつも彼女のあのセリフを聞いて毎回目が覚める。
…僕は嫌われたくないんだろうか。

時刻は午前4時。彼女は多分ぐっすり寝てる頃だろう。


「……………………」


携帯を手に取り彼女に電話をかけた。
…………出ない。いや、今のは多分切られたな。じゃあもう一度。
何度目かのコールが切れると彼女が電話にでた。ねむそうな声だ。


『…せんぱいしつこいですよ……』
「ふふ、どうしてるかなと思って。恋人っぽいだろう?」
『超眠いんですけど…ていうか、毎晩毎晩先輩もよく起きてますね…』
「いや、寝てたんだけど、ね…………」
『…先輩?どうかしたんですか?』
「いや、君が夢に出てきて、びっくりして起きてしまったんだ。」
『なんかめっちゃ失礼ですね。』
「僕も起こされて腹が立ったから、なまえも起こしてやろうと思って。」
『理不尽!!』
「はは、じゃ、おやすみ。」
『ほんとにそれだけなんですか…はい、おやすみなさい。また明日…。』
「うん、また明日…ね、いじめてあげるよ。」


また眠そうな声になった、多分もうまた寝たんだろう。


「また明日か…」


眠そうな彼女の声を思い出し、少し自然と顔を緩ませて、僕ももう一度眠りについた。







次の日、彼女はまた今日も僕の仕掛けた罠にまんまとひっかかると元気に悲鳴をあげた。


「ぎゃっっ!!げっほごほっ!なに?!黒板消し?!黒板消しか…うわ粉まみれ…」
「砂かけばばあってこんな感じかな?」
「す、砂かけばばあて!ほんと失礼ですね!も〜〜…」


屋上にもある水道で頭をすこし洗って、彼女も慣れたもので持ってきていたタオルで髪をふいていた。

顕わになった彼女のうなじが目に入り、夢のことを思い出す。その気になればいつだってあの夢の再現くらい出来るだろう、けど、


「女にばばあとか!年齢からんだこと言う男は嫌われますよ!」
「…それは嫌だね。」
「え?」


必死にコームで整えていたまだ少し濡れた髪をぐっしゃぐしゃになでてやると僕の大好きな元気な悲鳴が聞けた。


「ぎゃ!やめっ…やめてくださいいい!」


今はそれでも十分かな。








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