「あなたがなまえさん?」
「はあ…えっと…?」


なんだ?なんだこの状況は?


「たいして可愛くもないじゃない!」
「ほんとよね!」


一体なんで私が女子生徒に囲まれなきゃいけないんだ。


「全然釣り合ってないもの!」
「恋人っていうのは嘘なのよやっぱり」


なんで私が女子に集団いじめされなきゃいけないんだーーーー!


「あなた最近渚くんに近づきすぎじゃない?」
「ほんとうに彼女なの?」
「えっと……」
「嘘なんでしょう?」
「ええっと……」
「はっきり言えないって事はやっぱり嘘なのよ!」


その通りでーす…


「そのくせに渚くんに昼休みのたんびにべたべたと…」
「朝一緒に登校してるのも見たわ!」
「ずうずうしい!」
「全然釣り合ってないのに!」
「身の程を知ったらいいのよ!」


暑く晴れた屋上の隅、結構な人数の女の子に囲まれている。たまに肩を押される。
なんつーベタな展開なんだ…
恋人だって嘘ついた時点でこうなる事はちょっと不安だったけど…思ったより…どうしたらいいかわからないなあ…とりあえず、嘘つくのは良くない事だ。うん。謝ろう。


「えーっと……ごめんなさい。」
「謝ってすむことじゃないわよ!」
「そうよ!」
「これから渚くんに近寄らないって誓いなさいよ!」
「…あ、いや、えっと…それは…」
「できないの?!」
「できないです。…ご、ごめんなさい。」
「なによ!生意気…!」


ひとりの女の子が水いっぱい入ったバケツを持って来た。
こ、これは…


「え…うわ、ちょっと皆さんそれは…!」
「水かけるわよ!」
「いや待ってせめて場所変えません?!」
「なに?場所なんてどこも同じでしょ?」
「近づきませんって誓うならなんだっていいけど?」
「そ、それはできないんですけれども…でもここはちょっと…」
「もう!うるさいわね!」


私の言ってることが意味不明でムカついたんだろう。だよね。
私はバッシャーンとバケツの水を被った。あ、でも綺麗な水だ。汚かったらどうしようかと…
あ〜でもどうしよう。乾くかな…。


「頭冷やしなさいよ!」
「ですよね…」
「あんたさっきからなんなの?!意味わかんない!」


正直私も頭冷やした方がいいと思うんだよね。
あんな人の奴隷なんて…

私は向こうの方からこっちに近づいてくる人の名前を呼んだ。


「……渚先輩…」
「やあなまえ。随分酷いことされてるね。」
「渚くん!」


いやいやあなたに比べたらこんなの随分ひどいなんて言えないでしょう。
水なら既にかけられたことあるし。
今だって多分私が囲まれて言い寄られ水ぶっかけられるのを見てたはずだ。だって屋上はいつも待ち合わせしてる場所だし。止めてくれてもいいんじゃないっすか…。
先輩は私の横に立って私の肩にポンと手をおいた。



「僕の恋人に、何か用かな。」


よくもまあこんなに堂々と嘘つけるものだ。
私は多分凄いひきつった顔してたけど、周りの女の子たちはいろいろな弁解をしつつ去って行った。


「皆行っちゃいましたね…。」
「女の子って凄いね。水かけるとか、僕と同じことしてるじゃないか。」
「もっと先輩にはいろいろされてるんですけどね私…」
「ま、綺麗な水で良かったじゃないか。今日は天気もいいしその内乾くよ。」
「はあ…まあそうですね……ていうかよく堂々と大嘘つけますね…これで噂広まっちゃいますよ…。」
「別にいいじゃないか。奴隷だなんて噂広まったら問題だと思うけど、恋人なら普通だろう?」
「ううん…普通かな…」

渚先輩の恋人だなんて普通じゃない気がする…私は普通なのに。おかしいな。私は普通なのに普通じゃないのか?ううん?


「気にすることないさ。君こそ堂々としたらどうなんだい?嘘とはいえ、僕の恋人なんだから。」
「私嘘つくの苦手です…。」
「それは苦労するね。」
「…渚先輩の恋人設定の方が苦労しますよ…女の子にはああやって嫌われるし。」
「…君も僕以外に簡単にいじめられてるんじゃないよ。」
「そ、そんなこと言われましても…。」
「君は僕の奴隷なんだから、いじめていいのも僕だけなんだよ。前も言ったのに本当に物覚えも悪いね。」
「えー…、じゃあ見てたんだから止めてくれてもよかったじゃないですか。」
「君はがどういう反応するのか気になったんだ。でも場所を変えたいなんてどうして言いだしたんだい?」
「それは渚先輩がいるから…」


先輩がにやにや聞いてきて私はハッとした。
そうだった!
前水ぶっかけられた時学んだけど、水かけられるとシャツが…!凄い透けちゃうんだった!


「こ、こっち見ないでください!」
「もう遅いよ。本当、君って頭悪いね。」
「うあああだって…」
「前も思ったけど…貧相な体だね。」
「うわああああああああああああああ」


毎日こんなに暑いんだからはやく乾いてくれ!
私の祈りはあんまり届かず、乾かないので次の時間はサボることにした。
その間先輩にいちいちもう乾いた?とか見てあげようか?とかちょっかい出されて、ほんと…ほんと勘弁してください………










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