奴隷になったばっかりの時はそりゃあもう衝撃の連続。いや今も変わらないけどそれは。 渚先輩からメールがきた。 『今日の昼休み僕のところへ来るように。』 「………」 なんだこの教師みたいな台詞… ていうか、件名が『命令』なんだけど… …………………………………………………長考。 ………………とりあえず、私購買にパン買いに行かなきゃだし、遅いとなくなっちゃうし、冗談かどうかわかんないけど買ってから考えればいいよね。 メロンパン〜〜。 購買の人ごみをどう処理していくか後ろの方で悩んでいると、また携帯が震えた。 電話だ。…渚先輩だ。 どうしよう………………………………いや出なきゃ駄目か…。 「…もしもし」 「……なまえ?遅いよ?」 「えっ、あれ冗談とかでなく…?」 「冗談なわけないだろ?…後ろ、」 「え?」 「見てごらん。」 後ろ? 購買の後ろなんて窓しかない。 ひとりでキョロキョロして窓の外をのぞくと、屋上に先輩が立ってるのが見えた。 …私あそこからずっと見られてたの?ていうか、僕のところにおいでとか言っておきながら先輩があそこに居たら私が探し回る羽目になってたじゃん。 「なまえの分のパンもあるからさ。はやくおいで?」 「えっそんな、悪いですよ…!」 「いいから。…僕を待たせないでくれるかい?」 私が返事をする前に電話はぷつっと切れた。 私は目は良くないけど屋上のパンが入った袋を持った先輩がなんでかなんだか怒っているようなそんなふうに見える。というか、電話の声は怒ってた。絶対。 怖い…。こわすぎる…。けどまだ見られてるよね? …行かなきゃ。 見られてると思うと自然に少し走りながら私は屋上に向かった。 「………渚先輩?」 「遅いよ。」 屋上のドアをキイッと鳴らして恐る恐る開け、恐る恐る呼んでみるとすぐ声が返ってきた。すごい笑顔だ。…怒ってないみたい? 「ご、ごめんなさい。」 「はい。パン買っておいたよ。」 「わっす、すみません…ありがとうございま」 「おっと」 「えっ」 ぐしゃ 「……………………」 メロンパンは私の手に渡る直前に先輩の手から滑り落ち地面に落下、先輩の足が踏みつけてしまった。 ……………や、今の事故じゃ……?……………? 「踏んでしまったよ。ぐしゃぐしゃだね。」 「は…ははは。しょ、しょうがないですよね。えっと…私自分で買っ」 「本当しょうがないね、お食べ?」 「……は、…い?」 …今、なんと…? 「聞こえなかった?折角僕が奴隷の君のために買ってきたんだから、ぐしゃぐしゃなのはしょうがないけど食べなよ。幸い袋は破けてないし食べても大丈夫。良かったね?」 「え……や、あの、本気(マジ)で…?」 「冗談なわけないだろ?マジだよ。」 「…………」 「どうする?もうやめる?…今までにもね、何人か居たんだ、奴隷でもいいって人。でも皆泣いて逃げ出していっちゃったね。」 「………………いただきます。」 もうやめる?とか聞かれると、私も変な闘争心が出てきてしまった。一回はやるって言っちゃったし…… それに渚先輩には、その辺でキャーキャー騒いでる女の子達と私を一緒にしてほしくなかった。なんでか。 「ふふ。召し上がれ。」 「……美味しいです。」 「そう。」 「私、メロンパン好きなんで。」 「それは良かった。でもそれ僕にはメロンパンに見えないけどね。」 「…味は変わりませんから。」 「嘔吐物みたいだね。」 「おう……うっ、なんて事言うんですか!食事中に!」 「でも美味しいんだろ?メロンパン味の嘔吐物。美味しいならよかった。買ってきてしっかり落として踏んだ介があるよ。」 「これメロンパンです!メロンパン味のメロンパンです………え、しっかりって…やっぱりわざと踏んだじゃないですか!」 「ふふふ。美味しいならいいじゃないか。」 ちなみに先輩は落としてないメロンパンを食べてる。絶対見せつけてる。美味しいねと言われた。 …味は変わらないんだから。見た目だって。ただちょっとぼろぼろのメロンパンだってば…ちくしょう!凄く屈辱的…! 「……君をいじめるのって楽しいね。」 「…はい?」 「いいかい?奴隷は僕の命令は絶対だよ。」 「………努力します…。」 「出来なかった時は出来なかった時で考えるよ。それと…僕に嘘はつかないこと。」 「…わかりました。」 「約束だよ。」 「はい。」 「いい子だね。じゃあとりあえずなんでもいいから飲み物かってきてくれるかな。」 「…………………了解でーす…。」 「3分以内に戻ってこれなかったらお仕置きね。」 「…えっ?ちょ、」 「よーいどん。」 奴隷ってかパシり…? 考える暇もなく自販機まで走り出した。 なんとか3分以内までに戻ってくると「ぎりぎり間に合ったね、残念」とそんな残念そうでもなく言われた。間に合わなかった場合どうなってたか気になるけど怖い。 適当に買ってきたジュースを渡すと不味いと言われた。 最近わかったことだけど先輩は私が買ってきたものにはとりあえず不味いと言うことにしてるっぽい。 後で恋人ってことにしておくと都合がいいから、と言われ一応恋人のフリ…?もしてる…のか…な…? …ほんとひねくれてんなあ…… そんな風にほんの数日前の事を思い出し、じっと隣の渚先輩を見つめた。 顔はやっぱイケメンだなあ。 「…なんだい?」 「や…なんでも…」 「僕の顔が気になる?」 「そういうわけでなく…いや、イケメンですね先輩。」 「そう?ありがとう。なまえはぶさいくだね。」 「…………」 今日も天気よく気持ちのいい昼休みの屋上だ。 そんな感じで私は今日もひねくれた性悪な先輩の奴隷やってます。 ×
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