「なにがかなしいの?」
「…いろいろ。」
「いろいろってなに?」
「…たくさんあってわかんなくなっちゃった。ほんとはかなしいことなんてひとつもないのかも。」
「かなしいことないのにかなしんでるの?」
「…うん。わたしだめだから…ふつーのひとじゃなんともないことも、わたしにとってはむずかしかったり、かなしかったりして…だめなの。」
「きみのなにがだめなの?だめってなに?」
「それもいろいろ。なにをやってもうまくできなくて、やさしくなくて、すぐかってにきずついて、すぐなくし…ほかにもいろいろ。」
「ふーん、でもそれのなにがだめなの?ぼくよくわかんないや。」
「カヲルにはわかんないかも。いろいろだめだと、このばしょでいきてくのたいへんでね、つらいんだよね。」
「そっか、じゃあぼくといっしょにいこうよ」
「行くって、どこに?」
「んー、どこか。ここじゃないところ。ね、二人ならきっと楽しいよ。」
「ここじゃないところ…ほんとう?」
「うん。」
「私行ってもいいの?」
「おいで。」

彼は、そう言って少し強引に私の手を引っ張った。
白くて細い腕に掴まれた私は何も考えなくて良くて、そのままここではないどこかに彼と歩きだした。



「」

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