「悲しかったことばかり思い出すの
いい思い出だってきっとあるはずなのに、おかしいよね。」

窓から空が見える。夜があけそうなとても綺麗な空が。
ベッドの上で横にならずに足を伸ばして座っている。なんだか力が入らないんだ。だるくて重くて痺れてるような感覚。
頬には勝手に出てくる涙が流れて私の顔を一層汚くみせる。
隣には同じように座ってるカヲルがいて、カヲルの肩にもたれかかっている。カヲルはそんな私の肩を抱いていてくれる。

「…もしかしたら、皆そういうものなのかもしれないよ、人間っていうのは。」
「そうなのかな…」

2人で一枚の毛布を共有している。肩を抱いてくれている手が毛布も私にかかるようにしてくれてる。
…あたたかい。カヲルは肌真っ白で、見てるだけだと触れたら冷たいんじゃないかと思ってしまうけど、そんなことなかった。こんなに近くだと心臓の音も伝わってくる。ちゃんと生きてるって感じる。

「でも、毎日毎日くだらないこと思い出しては泣いてばっかりなの。やっぱりちょっとおかしいんじゃないのかな、私。………前を見れないの。こわくて。」
「先に何があるかわからない恐怖…それは多かれ少なかれ皆が抱いているものだよ。」
「私はじゃあ、それが大き過ぎるってことかな。」
「君がそう思うのならそうかもしれないね。」
「………うん…カヲル、私、もうカヲルのことしか……私……」
「うん、わかっているよ。それでもいいんだ。僕がずっとそばにいるからね。」
「カヲル…」
「もう壊れているのかいないのかもわからない…君の心はガラスよりも繊細だね。」
「そうなの…こんなんじゃ…だめなのに………」
「駄目じゃないよ。誰かが君のそれを叱ったとしても、僕は許してあげるよ。僕だけは全部許してあげる。そんな脆くて弱い君が愛しくてしかたないんだ。」

もう涙しか出てこない。何の言葉も思いつかない。ただ汚いこんな顔を見られて嫌われたくないと思って手で覆っていた。こんな時でも私はまだ悪い方にばかり考えるみたいだ。

「何をしたって何を思ったって、君の自由だよ。全部許してあげる。君が生きていることを許してあげるよ。」

まだ泣いて言葉が出なくて、ありがとうも言えない自分にイラついた。私のことを本当に許してくれないのは私自身なのかもしれない。

いつまで経っても何を言ったってこんな事ばかり考えている私の気持ちを見透かしてるみたいに、カヲルは言葉よりも優しい目で私を見つめていた。








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