部屋番号が彫られたプレートのある扉を適当に叩くと、中から高いような低いような声の返事が聞こえてきた。
中に入るとそこには緊張した面持ちの、娼館には似つかわしくない女が座っている。さらりとした長い髪にワンピースから覗いている白い脚。
これといった特徴もないが欠点もない、純朴かつ幸の薄そうな顔立ちが娼館のけばけばしい女達に慣れた俺には新鮮で、悪くないように思えてくる。お代はいらないと言われたからにはとんでもない女が相手かもしれないと思った俺はひとまず安堵した。

「しかし…地味な女だな」

思わず口にすると、コンプレックスだったのか女が俯く。

「うう゛…悪かったですね。俺、あ、わ、私には華なんてないし」

何か事情があってここで働く事になったのだろうか。そうだとすると男慣れしていないように見える彼女にとっては酷い言葉だったかもしれない。

「すまんすまん。落ち込まないでくれ。純朴で田舎臭いのもたまには悪くないって。あんたみたいな何も知りませんって顔した女が俺の下でよがるようになった時の優越感と達成感と言ったら…未開の地を開拓するロマンだよ。…おっとそんな変態をみるような蔑んだ目で俺を見ないでくれ。まあ、その、清純そうだなって言いたかったんだよ、うん」

ベッドに近付き隣に腰をおろすと、女は俺を避けるように人ひとり分開けて横に移動する。こいつ何で娼館なんかで働こうと思ったんだ?処女だったりしたらどうしよう。いや、それはそれで美味しいかもしれない。
緊張しているのだろう、顔を強ばらせこちらと目を合わせない女を見ていると不思議と征服欲が湧く。

「……ん?」

胸元に手を伸ばし布越しにまさぐると、そこは平面だった。思わず嫌がる女を押さえつけ、ワンピースの胸元についたボタンを外し中を確認すると、胸だと言えるものがどこにも見あたらない。受付のババアが言ってた訳ありってのはこの事か?

「お前…乳がないなぁ貧乳っていうか…無乳?小せぇ乳首。俺巨乳派なんだけど」

「すみませっ、ぁ、」

小さな乳首を指で軽く摘むと、女はびくりと跳ねて顔を真っ赤にさせる。

「…でも感度は良いみたいだな」

過ぎる反応に俺まで驚いてしまった。うん、悪くないかもしれない。

「ん、ん、ぁ、やめ、」

「男慣れしてねーくせに乳首でこんなに感じるわけ?もしかしてこの顔でビッチだったりする?」

胸元に顔を埋め片方の乳首を舌で弄びながらもう片方を手でこねると、女は首を横に振りながらも面白いくらい反応する。
清純そうな見た目の奴が乱れているからだろうか。地味な顔のくせに眉を寄せ唇ときゅ、と噛みしめて刺激に耐える姿がえろくて、いつもならさっさと挿れてしまうのに執拗に乳首を弄ってしまう。

「も、言うな…っ、あ、あ、い゛っ」

舌で転がしていた乳首に噛みつくと、女が仰け反り白い首が露わになる。

「指で擦られたり摘んだりされたりするのと、舌で舐められるのどっちが好き?」

「ん゛、ぅ、どっ…ちも、や、ぁ、あっ」

顔を真っ赤にさせて涙目でやめてと女は訴えている。口調は本気で嫌がっていても、身体では感じまくっているくせに。娼婦のわざとらしい反応でも、そこらの女の退屈な反応でもない、いやらしい反応にもう俺のちんこは痛いくらいガチガチになっていて、堪らなくなって女の下半身に手を伸ばした時だった。

「……ん゛?んんん?」

おかしい。スカートが妙に膨らんでいる、というか硬い。手に女では有り得ない硬い物が当たっている。
まさか、いやいやいやいや。頭の中では一つの結論が出ていたが、焦りすぎて現実が受け入れられない俺はワンピースの裾を思い切りまくり上げる。
そこにはご丁寧にも女ものの下着をまとい、布の下で窮屈そうに存在を主張する男の証があった。

「お前男か!!!!!」

信じられない。思わず後ずさってしまった。パニックになりすぎて動悸がしてくる。
女…もとい男はやっぱり俺と目を合わせない。始めこそ緊張のせいだと思っていたその行動の真意を漸く悟った。

「くっそあのババア!タダでいいなんておかしいと思ったぜ!とんだ地雷じゃねーか!!!」

「女だなんて一言も言ってないです…気付けよ普通に」

バレた事で誤魔化す気が失せたのか、発せられた声は紛れもなく男のものだった。

「馬鹿かお前は!女装した男が娼館にいると思わねーだろ!!」

「ぅ、すみません…、色々事情があって…」

好きでこんな事をしているわけじゃないなどと意味不明な事を言いながら、男はもぞもぞと身体を捩る。蕩けた表情でこちらを見やる男に不覚にもドキリとしてしまった。

「どうしよ、俺、身体が…」

「…っ、なんて顔してんだよお前」

シーツの上に横たわる男は切なそうな顔をして目を伏せる。悩ましい吐息が零れる半開きの唇からは濡れた赤い舌が覗いていて、俺は思わず喉を鳴らす。顔だけは普通に女に見えるから余計質が悪い。

「ごめなさ、気持ち悪いですよね、ごめんなさい、っ、身体が変で…」

くらくらする。おかしい、おかしい、おかしい。俺はホモでもなんでもない。遊び人の名前に恥じないくらい女が好きだし、男なんて視界に入るだけで迷惑な存在だったはずなのに。男が乱れているなんて気持ち悪い状況の中ちんこはガチガチに勃起したままで、過ちを犯してしまいそうな自分がいる。
この男、何か変だ。潤んだ瞳に見つめられると、まともな判断ができなくなる。首から上は女だからか?身体もちんこがついている事を除けばそれなりだから?

「わかったよ!責任とればいいんだろ!たとえ相手が男だろうと据え膳食わぬは男の恥だ!俺は遊び人だぞ!この状況で逃げ帰ってたまるか!!」

「え、ちょ、あ!待っ、だめっ、」

なるべく下半身に目をやらないようにしながら男に再度のしかかる。戸惑いがちな顔が目の前で泣きそうになっている。

「…そんな顔すんなよ。俺が苛めてるみてーだろ」

「だって、俺…すみませ、」

「もういいって」

騙す事に罪悪感があるのなら始めからしなければ良いものを。どんな事情でこんな事をしているのか俺には皆目検討もつかないが、悪い男ではなさそうだ。

「っひ、ぁ、そ、なっしなくて、い…っ」

覚悟を決めて男の勃ち上がったちんこに触れると、濡れまくってぐしょぐしょだった。男のくせにちんこ撫でられただけでビクビクしてえろい奴だ。

「なんでこんな所まで徹底してるんだよお前」

「だ、だって、無理矢理っあ、あっ、だめ、」

「まあいいや。ほら、四つん這いになってケツだせよ。ちんこ見えると萎えるから」

男はまた「すみません」と謝ると、真っ赤な顔をしながらよろよろと起き上がり、俺に尻を向ける。アナルセックスなら女としたことがあるから、後ろを向いていればどうにかなるだろう。
ローションでも仕込んでいるのか、布の上から男の穴をぐりぐり弄ると、中からぬるぬるしたものが止めどなく溢れてくる。男は尻を弄られる度シーツに顔を埋めてひっきりなしに喘いだ。

「あ、ぁ、んんッ、ぅ、ふぁっ!?」

堪らなくなって下着を片手で伸ばして広げ、露わになったアナルに指を突っ込む。ひくついていたそこはずぷ、と俺の指を受け入れ熱い内壁を蠢かせた。

「はは、ぐちゃぐちゃ。男のくせにエロいケツしてんな」

「言う、なッひゃ、あ゛!だめ、や、だっぁ、」

ずぼずぼと指を出し入れすると男の尻がぴくぴく動く。男は駄目だの嫌だの言いながら逃げようとするが、中に挿れた指を少し動かしてやればすぐに抵抗しなくなる。
指を二本に増やし蕩けた体内を探ると、他の部分とは感触の違うところがあった。

「ん?何かここが…」

「ひっん゛ッ!そ、こ…っ!」

何だろうと思いそこを指先で軽く掻いた途端、男は大きく仰け反りそしてへにゃへにゃとシーツの上に倒れる。面白くなって乱暴にそこを擦ったり押したりすると、男は全身を突っ張らせて痙攣し始めた。

「あ゛っ!あ゛っ!ら、め゛ッそ、こすったら…ぁ!んぁ、すぐイっちゃ、あァ゛、」

「んだこれ…すげ、」

やめてくれとこちらを向いた男の顔はそれはもういやらしくて。涙ぐんだ目と顎を伝う唾液に、俺の股間は痛い程はりつめていた。

「お前のせいで変なもんに目覚めそうだよ…」

「も、も、やら、ひ、ぃ゛ッ!おかしく、あ゛ぁ!やめ゛で、ぅうう゛、」

ぐちゅ、ぬぽっと指に合わせて卑猥な男が漏れる。頭の血管きれるんじゃないかっていうくらい顔を力ませている男はやめてと何度も叫び、その度に盛大にイった。演技でも何でもない。こいつは真性の淫乱だ。
見えたら萎えるからと履かせたままにしていた下着からはシミを通り越して精液が滴っているが、不思議なことに嫌悪感はない。

「なあ、こんな身体で女とできんの?」

「ひぁ、んぅう゛、し、したことなッ、ぁア、」

「童貞かよ。お尻が気持ち良くて女の子とはできませんーってやつ?」

「あ゛ッ、ゆびぃ、とめ、イ、っあ、れちゃ、ぁ、」

否定しているつもりなのかぶんぶん首を横に振りながら、男はまた痙攣した。説得力のない奴。
もう三本も指が挿ってしまっている男のそこは男の身体としてはおかしいくらい濡れそぼっていた。ぬるつく肉壁にきゅうきゅうと指を締め付けられ、あまりに具合の良さそうなそこに我慢ができなくなる。
こいつが男だとかそんな事はもうどうでもよくて、ただこのとてつもなく気持ちの良さそうな穴に挿入して滅茶苦茶にしたい、それだけだった。

「ひゃ、ふ、ん゛…ぅ…?」

ずぶ、と指を引き抜くと、さっきまで嫌だと言っていた男が名残惜しそうな声をあげる。ピンク色の粘膜を覗かせながら、粘液を滴らせるアナルに硬く勃起した俺のちんこをあてがうと、男の尻が嬉しそうに震えた。

「ほら、お前の大好きなもんくれてやるよ」

「ぁ、あ、はいって…っ、ふぁ、ふと、ぃい」

ゆっくりと腰を進めていくと穴はじわじわと広がり、俺のちんこを包んでいく。指を三本も挿入して慣らしたにも関わらずまだきつい中に俺は思わず息を詰めた。

「は、ん゛、ん゛、ぅう゛、」

力が入らないのか四つん這いというよりは尻だけを高く上げた体勢の男はぎゅうっとシーツを握り締め、荒い呼吸を繰り返している。

「っ、全部っ入ったぁ…っ!」

「ぁ、ァ、はあっ、はあっ、おなか、くるしっ、ん゛、」

「おら、動くぞ」

「ひっぎ、ああ゛ッ!だっめ゛ッぁあ゛、はげしっ、」

快感に夢中になってしまい、好き勝手に腰を振る俺の下で男は悲鳴に近い喘ぎ声をあげた。ばちゅばちゅと肉同士がぶつかり合う下品な男を響かせながら何度も何度も男の腹の中を穿つ。

「あークソ、とまんね、ッ」

「あぁあッなかっ奥にッや゛!ふかっぁ、ひぅう゛、」

滅茶苦茶にピストンを繰り返す。背筋をもの凄い速さで快感が駆け抜けていき、俺の脳を痺れさせた。
ガクガクと揺さぶられ、眉間に皺を寄せながら俺の律動に耐えている男の横顔により一層むらむらする。つい悪戯心が湧いてカリでイイ所を抉るように腰を動かしてやると、男は目を剥いて仰け反った。

「んひ、そこ、ん゛ぅう、どうしよ、尻がっァ、」

「きもちい?」

そう訪ねると男は切ない顔をしてこくこく頷いた。やばい、可愛い。

「じゃあいっぱいしてやるよ」

男に覆い被さり耳元で囁くと、中がぎゅっと締まる。いちいちツボを突く男の反応に、もうこいつが男だとかここが娼館だとかすべてどうでもよくなってしまっていた。

「っ、お前ほんとやばい」

「ん、ぁ゛っ、なか、ごりごりってぇっ、あっあっ、」

苦しそうな声を出していたはずの男も今やひいひい鳴いていて、尻をちんこでごりごりされる事に夢中になっているようだ。舌を出しただらしない顔で俺を見ながら、気持ちいい気持ちいいと譫言のように呟いている。

「あ゛、ふゃっ、すごッしゅごいぃ、きもちぃっ!ずっとイってぅ、も、きちゃ、ああァ」

男が感じる度にびちゃびちゃとアナルから溢れた粘液が俺の太股あたりを汚す。こいつが自分と同じ性別だなんて俄には信じられない。
じっとりと汗ばんだ尻の肉をぎゅむぎゅむと揉みながら、俺はピストンを激しくしていった。

「っあーイくイく、でる、」

「ぅぐぅう゛うう、おしり、こわれちゃっはひッ、らめ゛ェ!あ゛!あっ…ん、ぐぅ、」

中にびゅくびゅくと精液を注がれているのがわかるのだろう。俺のちんこがドクドク痙攣する度に、男もピクンと跳ねる。たっぷり中に注いでからずるりとちんこを引き抜くと、男はシーツの上に崩れ落ちた。
女もののぴっちりした下着を手で伸ばしながら挿入していたものだから、それはもう広がりきって下着の体をなしていない。丸見えとなったアナルから先程注いだばかりの精液がとろとろと零れるのを見て、俺はまた股間に熱が集まるのを感じた。

「は、ぁ、…んぁ、」

未だ余韻に浸っているのだろう、時折身体を痙攣させていた男はのそりと起き上がると、俺に向き直りゆっくりと近付いてくる。

「な、何だよ、ちょ、ぁ、」

ふうふう熱い吐息を吐きながら男は俺の股間に顔を埋めると、さっきまで自分の中に入っていた俺のちんこを何の躊躇いもなく口に銜えた。その目はとろんとしていて、男が完全に飛んでしまっている事がわかる。

「んむ、ふぅ、ね、もっかい、これで中ごりごりして…?」

ちゅうちゅうと亀頭に吸きつきながら上目遣いでそう言われ、俺の理性は簡単に振り切れたのだった。






結局それから口に二回、中に二回出して男が空イキを繰り返し失神しまくるようになった頃、やっと俺達は落ち着いた。最終的には相手が男だという事すら忘れてお互い全裸で行為に耽っていた気がする。
今は二人とも疲れ切ってシャワーも浴びずにべったべたな身体のままベットに転がっていた。しばらくして正気に戻った男はあれだけ大胆に乱れていたのが嘘のように大人しくうじうじしていて、俺はますます男の事が理解できなくなる。

「お前、何でこの娼館にいるんだ?」

まるで二重人格のようなこの男が抱えている事情とやらが知りたくなってそう訪ねると、男は情けない顔をして説明してくれた。

「…それで、女装させられてこんな所に…」

「お…前、勇者だったのか…」

驚きすぎてそこから先の言葉が出てこない。唖然としている俺を見て勇者は顔を真っ赤にすると、布団を被って顔を隠した。男がやったって気持ち悪いだけなのに妙に可愛く思えてしまうのは絆されているという事なのだろうか。

「いやー…知らなかったわ。勇者ってその…何だ…エロいんだな」

「言わないでください…」

こんな事になるとは思わなかったんです、と布団の中から聞こえてくる小さな声。俺だって勇者とセックスする事になるとは思わなかったよ。

「あの、それで、その…」

おずおずと布団から顔を出した勇者が言葉に詰まっているのを見て、怪訝な顔をしてしまったが、「何て呼べば…」と言われて漸く言いたい事を理解する。

「遊び人だよ」

「え、ほ、本当に?」

「嘘言って何になるんだよ」

「遊び人って本当にいるんですね…どうやって生活しているんですか?」

「実家が金持ってると働くのが馬鹿らしいんだよ」

「うわぁ…」

「お前…喧嘩売ってんのか。俺だって勇者がこんな淫乱野郎だとは知らなかったっつーの」

「あ、や、すみません。その、人に言わないでくださいね…」

「言わねーよ。言ったところで信じる奴もいねーだろ」

あれだけもっとしてと強請ってきたあいつはどこに行ってしまったんだろう。処女かと思ってしまった時と同じ態度の勇者に俺は首を傾げる。
身体を重ねたせいだろうか、どう考えても勇者には向いていないこの男を見ていると心配になってきてしまう。

「北の洞窟に行くって言ったよな。やめといたほうがいいぜ、あの洞窟にいって帰ってきた奴はいない。女はもちろん、それを助けにいった男もな。お前、腕っ節が強いわけでも強力な魔法が使えるわけでもないんだろ?死にに行くようなもんだぜ」

「でも…俺は勇者だから。困ってる人を助けないと…」

自信がないのだろう、口では立派な事を言いながらも俯く勇者があまりにも頼りなくて俺は溜息を吐いた。

「はあ、仕方ねーな。…これ、やるよ。俺が持っていても使わねーし」

ベッドの脇に放っておいた荷物を漁り、行商から売りつけられた道具を取り出す。

「これは?」

「お前勇者のくせに怪鳥の羽も知らねーのか。これを洞窟の中で使うとするだろ、そうしたら洞窟の外まで一瞬で移動できるっていうアイテムだ。やばくなったらこれ使って逃げろよ」

「遊び人さん…!」

感激しました、そんな目で見つめられて気恥ずかしくなる。これから勇者がしようとしている事が勝ち目のない無謀な挑戦だとわかるからこそ、羽を手に持ちニコニコしている無邪気な姿に切なくなった。こいつが死んでしまうのはあまりにも惜しい。

「ありがとうございます!」

「別に。てめーとヤれなくなるのが惜しいだけだ」

「え゛っまたするつもりなんですか…?そんなの趣味じゃないって…」

「うっせーな気が変わったんだよ!お前が無事に帰ってこれたら祝杯代わりに死ぬ程イかせてやるから覚悟しとけよ!」

「いや…その、遠慮しときます…俺ここには十日しかいないし…」

あれだけイき狂っていたくせに今は本気で引いた顔をしている勇者。
本当、わけがわからない男だこいつ。






娼館に行ったら相手が男で、しかも精液搾り取られたというトラブルに見舞われたものの、何だかんだすっきり満足して娼館を後にした俺は、再び金持ちの放蕩息子よろしくいい加減な生活を送っていた。

「あ!遊び人じゃねーか久しぶり!」

行きつけの酒場で暇を潰していると、顔馴染みの男に声をかけられた。そいつは何故か自慢気な顔をしていて、とっておきの情報を持っていると言う。

「お前って娼館好きだったよな?ほら、この近くに無愛想なババアがやってる娼館があるだろ?あそこに変な新人が入ったらしくてな。それが誰も詳細は語りたがらないが骨抜きにされて帰ってくるっていう魔性の女なんだと!」

「え、あ、そ、そうか…」

それってまさか。

「あれ?反応悪いな。お前らしくもない。なあなあ今から行ってみようぜ。噂によると物凄い貧乳らしい」

貧乳以前に男だぞ。しかも魔王討伐の旅真っ最中の勇者。
ケラケラと笑う男に俺は苦笑するしかない。

「いやー俺は今そういう気分じゃないかな…はは…何か怪しいしやめとこうぜ」

「…どうしたお前?変な物でも食ったか?」

怪訝な顔をしている男を適当にあしらうと、俺は複雑な気持ちを振り払うように酒を呷った。
たった一週間で妙な噂が流れるほど有名になるとは。誰も語りたがらないのは男に夢中になった自分が恥ずかしいからだろうな。俺もその一人とは情けない。情けないが吃驚するほど気持ち良かったのは確かだ。

「あいつ本業忘れてないだろうな…」

勇者の痴態を思い出して勃起しそうになりながら、俺は煙草に火をつけた。




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