アニマ・メモリア | ナノ

掛けた指は躊躇いなく

 とあるホテルの一室。絡み合う手足、混ざり合う熱い吐息。仄かな膨らみに伸ばされた手を牽制するかのように、少女は自身の指を絡める。妙齢の男に跨ったまま、妖しく腰を揺らめかせた。ちろりと舌を見せると指を絡めた片手はそのまま、倒れ込むように男に抱き着く──ふりをして、枕の下に隠していた愛銃を取り出す。
 愛銃に刻まれた狼のエンブレムが、薄明るい照明に照らされて鈍く光った。銃口を男の額に向け、「ばぁん」と小さく、楽しげに呟く。男の表情が浸っていた快楽による悦から恐怖によって歪んだのを見ると、少女は楽しそうに口角を吊り上げ、唇を舐めた。

「……さあ、洗いざらい吐きな。ここまで相手してやったんだ、お代はじゅーぶん……だろ?」

 男の額に銃口を押し当て、腰を上げる。膝でベッドの上に立ちながら、その真っ白な肢体を惜しげも無く眼前に晒す。ごくり、と男の喉が鳴った。引き金に掛けられた白い指が、じわじわと男の寿命を縮めて行く。

「“ナニ”について、とか抜かすなよ? このエンブレムを見りゃあ私が何の用事で臭ェおっさんの相手をしたのか……わからねぇワケ、ないよな」

 青い眼が、氷雪の如き冷たさを帯びる。凍え切った声音に、男は歯噛みした。

「調査で粗方検討はついてんだけどな、“アイツ”と繋がりがあるであろう人間から直接名前を聞かなきゃいけねえんだ」ICレコーダーを手の平で示すと唇を歪ませて怒気を込めて脅すように告げる。「──言えよ、このクソッタレな町に住むバカ共を纏めてやがるキ××イの名前を!!」

 男の唇が知った名前を紡いだ、瞬間。哄笑と共に撃鉄が、落ちた。詰まらなそうに銃口を上げ、死体の表情を確かめると歯を軋ませ、続け様に二発、心臓に銃弾を撃ち込む。

「五人聞いて五人同じ名前を吐きました、以上」

 死後の表情と、までは余計な事かと言わずにおいて、ICレコーダーのスイッチを切った。軽く肩を回すと、愛銃をサイドテーブルに置いてベッドから飛び降りた。苛立たしげに舌打ちをかまし、脱ぎ捨てていた下着と服を手早く身に着ける。愛銃をホルダーに仕舞うついでに、溶けかけた高価そうなチョコレートを口の中に放り込む。

「やっと。……やっと、だ」

 溶けかけのチョコレートは、口の中であっという間に消えてなくなる。チョコのついた指を舐め、死体を再び見ることなく部屋を出た。締めたネクタイを緩め、端末に表示された番号をタップして耳に当てる。

「死体処理班を至急お願い。場所は──」

 連絡を済ますと、片手に握ったままだったピンズを取り出して襟元に付ける。銀の狼がぎらりと光る。
 早々にチェックアウトも済ませ、ホテルから出ると、東の空からは太陽が顔を出していた。改めて時間を確認すると、面倒臭そうに欠伸を零す。朝日に煌めく金の髪を掻き乱して、少女は駐屯地への道を急いだ。

140707


[ back to top ]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -