08
「操神の現当主はねぇ、操神乙葉って言ってぇ、狼の牙所属の規制派なんだけどね。──知っている? そちらに属しているのは、操神の人間を政府に人質に取られてるからっていう、根も葉もないウワサ」
未珠がにしゃりと笑う。正直言って、キャパシティオーバーだった。
──ユリが、操神の当主の妹で、僕は昔に彼女と会っていて。
何が何だか分からない。何をどう理解していいのかも分からない。
「で、もうひとつ流れている、根も葉もないウワサ。──操神は現当主の妹を人質を取られているのである! ってやつだねぇ」
未珠の笑みが深まる。どちらも、光希は聞いたことはあれど、気にしたことなどなかった。
天下の傲慢様も苦労するのだな、とその程度の感想しか抱いたことしかなかった。
同じ異能者の身なれど、階級は段違い。その上、住む世界も違うとなれば、テレビの向こうの人とそう変わりはない。
「……っ、たった、たったそれだけのことで、……ユリは、閖葉は、僕を助けようなどと思ったのか」
喉の奥から絞り出すような言葉だった。息苦しさに喘ぐような言葉だった。
けれど、光希は半ば理解してしまっていた。
太陽に焦がれるような想い。身を焼くような情動。
憧れと錯綜して、己がかつて未珠に抱いていた想いと、似たそれ。
──似ているけれど、異質なそれ。
「うん」
返って来たのは、たったひとつの頷きと、見ている方が苦しくなるくらいのぎこちない笑みだった。
160521
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