アニマ・メモリア | ナノ

07

「白い、つばひろの帽子です。わたしは、余り日差しに強くないから、外に出る時はいつも、それをかぶっていて……。でも、その日はすごく、風が強かったんです。
 案の定、帽子は風に煽られて飛んでしまって。出不精なものだから、飛ばされた帽子を追うにも一苦労だったんです。帽子はふわふわと飛ばされて、ああこれはもうだめかな、って諦めてわたしは足を止めてしまった。物はまた代わりを探せばいいと、自分を納得させようって思ったんです」

 とろけるような笑みだった。見惚れてしまう儚さがあった。
 微かに血の気を取り戻した顔を見て、どきりと心臓が脈打つのを光希は聞いた。──頭を振る。

「公園の、中だったんです。ベンチに座って、日が暮れるまで休んで、暮れ切ってから帰ろうと思って。帽子のこと、なんて言い訳しようかな、とも考えていたんです。考えながら、俯いていたら、見覚えのある白が、目の前にあったんです」

 胸元でぎゅっと握り合わせられた手に、酷く強い想いを感じた。
 光希にとっては取るに足らない出来事。本当に偶然、追い掛けているのを見かけただけ。その時ばかりの、たった一瞬の親切心。気まぐれといっても差し支えのない行動。

「これ、貴方のでしょう、って。作り物めいていたけれど、やわらかな笑顔で、きみが、──光希くんが、渡してくれたんですよ」

 滅多に外に出ることが赦されない少女にとって、その出会いは鮮烈だった。陳腐でもいい、運命だとすら思った。
 けれど、自分は操神の娘で、本来ならばこうして自由に外を出ることすら許されない立場であった。
 操神閖葉は、血に刻まれた傲慢の異能が強すぎるが故に、本来ならばその一生を閉じられた屋敷の中で、孤独に終わる筈だったのだ。

160521

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