06
光希は混乱の極みの中にいた。
銀碧の少女は、うつくしい、ピジョン・ブラッドをその碧眼の中に宿す少女は、"あの"操神の娘だと、未珠がはっきりと、そう言ったのだ。
──ドイツのペーター・ビンスフェルトが罪と悪魔について記した著作。
その人はカトリック教会の"七つの罪源"と呼ばれた罪の源と悪魔を関連付けたと謂う。
血に宿った異能の性質が、性能が、興りが、余りに似通っていた為に、余りに同質であると謂われたが為に、──余りに他の異能と比べ異質が過ぎたが故に。
"それら"に擬えて、"そう"在れと謳われた異能の流れが七つ。
後にそれは、次々と発覚する異能のカテゴライズに使われるようになった。
しかして、真に"それ"と謳われるのは七つの異能を宿す家系のみと、異能を持つ者の間では周知された"噂"であった。
"傲慢"たる異能の血、操神。当主の妹であるらしい、眼前の少女。
それだけの情報でも頭がパンクしそうなのに、彼女は今何と光希に告げたのだったか。
──「……わたしが、未珠さんにお願い、したんです。彼の、──光希くんの、力にならせてください、って」
「なんで、」
他にもっと言いようはあるだろうに、それぽっちの言葉しか発することが出来なかった。
真っ青な顔のまま、未珠に支えられるようにして背筋を伸ばした閖葉は、まるでこれでお終いだと言いたげな、薄い笑みを幽かに浮かべながら、唇を動かす。
「きっと、光希くんは憶えていないと思います。──それくらい、他人にとってみれば些細で、どうでもいいことが、きっかけなんです」
歌うように唇から零れ落ちて行く透き通った言葉を、光希は聞き逃すまいと耳をそばだてた。
くすり、と小さな笑い声を立てて、僅かに首を傾ける。
「帽子をね、拾ってもらったんです。……それから、この"眼"も、ほめてもらった」
夢見る乙女のような表情だ、と思った。
──それは、彼女が普段、光希と一緒にいるときに、常と浮かべていた表情のように思えた。
160521 冒頭部参照:
七つの大罪 - wikipedia
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