03
「ゆりちー、いつもごくろーさまぁ」
「未珠、さん」
ぱちりとまばたきを二回。此処が自室である事を確認してから、少しだけ寝癖のついた髪に手櫛を数度入れる。
上半身を起こして、壁に背を預けながら、薄らぼんやりとした視界の中で、曖昧な笑みを浮かべるその人に視線を向けた。
「窓から、ごめんねぇ。まあ、いつもなんだけど」
「その為に、鍵、あけてありますから。気にしないでください」
軽く両手を振って、会釈を一つ。
窓辺に腰掛け、月明かりを一身に纏う島喰未珠を見やり、ユリは目を細めた。
「月光はどーお? 安定してきたあ?」
「そう……ですね。感染型の浸蝕があれ以上進む事は、ないと思います」
「そっかぁ、なによりなにより。……ふふ、ゆりちー、月光のことどーおもう?」
未珠を二度見て、ユリは面食らったようにまばたきを繰り返した。
「どう思う、とは」堅い口調でそう返すと、「どう想う、ってことだよぉ」と鸚鵡返しにされる。
「……どう、とも。わたしは、自分の感情を話せる立場に、ありませんから」
「きにしなくていーのになぁ」
くすくす、けらけらと笑い声を立てながら、未珠は窓の外へ身を躍らす。
「──いいんだよぉ、すきにして。
邪魔するようなのがいるんなら……あたしが、どうにかしてあげるよ?
……操神閖葉ちゃん?」
160110
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