某狂 | ナノ



喪失感に再び指を絡ませる

 ――今回も、間に合わなかった。

 今日、僕はまたリリスを喪った。
 珍しく湿り気を帯びたイズミの声に、僕は携帯を落としそうになった。今まさに、病院へ向かおうとしていたというのに。ごめんと呟いた時、一体どんな表情をしていたのだろうか。



「……リリス、」

 霊安室には僕と彼女の二人きりだった。
 死に顔は安らかで、微笑んでいるようにさえ見える。
 幾度、輪廻を繰り返せば、彼女が元気でいられる世界があるのだろう。
 幾度、輪廻を繰り返せば、僕は彼女を支えてやれるのだろう。

 歯痒くて、泣きそうで、泣けなくて。

 ほっそりとした指に触れて、目を伏せた。
 冷たかった。昨日、微笑んでいた彼女は、もうこの世界にはいない。

 世界は僕に冷たい。――否、世界は総てに冷たい。
 そういうものだ。そういう風に出来ている。それが世界だ。

 誰か一人に優しい世界など、あるはずもなかった。

 誰かしらがなにがしかの試練を与えられ、苦しみながら生き抜いていく。

 勝手に神の座を降りた僕を、きっと世界が許さないのだ。

「僕は、ただリリスを幸せにしたいだけなんだ」

 静かな部屋に、悲痛な叫びがこだました。
 慟哭にも似たそれは、誰に聞かれることもなく。



今年もお世話になりましたっていう書き納めにしては暗い。明るいの書けなくてごめんね、来年もよろしく。


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