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一目見た時から既に惹かれていたのかも知れない

 エレフセリアは何時ものように、手紙を認めながら水晶で城周辺の見張りをしていた。魔女狩りという制度はなくなったものの、一度根付いてしまった意識はそう簡単に正す事が出来ない。これから先、何百年何千年と経って漸く、城に匿った魔女や魔法使いたちも人の世に馴染めるようになるのだろう。――そうあって欲しい。
 そんな複雑な事情もあり、エレフセリアは気を張っていた。今でこそ落ち着いたものだが、昔はこの城の近くまで近衛騎士団が来ていた。そう考えると今は大分穏やかになったのかもしれない。

「魔術師が受け入れられる時代になったものね」

 もういい頃合いなのかも、と思う事もあったが、根付いた恐怖が克服されるにはまだ時間を必要とするだろう。
 また何時ものように思考を終わらせ、便箋を封筒に仕舞い、蝋で封を綴じた。そうして一息付いてから水晶を覗くと、城をぐるっと囲む森の中に人の姿があった。まだここまで来る人間がいたとは思わなかった。エレフセリアは水晶の杖を携えて、侵入者の姿を追いながら森へと急ぐ。

「はて、妙だわ」

 どうやらその人影は男らしかった。
 右へ進んだかと思えば、今度は後退し左に曲がって直進しつつ首を傾げている。代弁するなれば、「あれー出口が見えて来ないなぁ」と言ったところだろうか。

「迷子ね」

 余りにも堂々としているので、最初はこの城を狙って来たものだとばかり思っていたが、ここは結界や人払いの呪い(まじない)をかけているわけでもない。
 つまり、一般人が迷い込む事がないわけじゃない。その度にエレフセリアは迷い人を誘導したりもしていた。
 やれやれと息を吐き、エレフセリアは男の前に姿を現した。

「そこの。この先には何も無いわよ」
「なんだって? おかしいな……どこで道を間違えたんだ」

 男はやや大仰に片眉を釣り上げて、手元の地図を広げた。印の付いてる場所は知っている、確か廃館になった図書館が大樹に支配されて現存していた筈だ。エレフセリアも何度か足を運んでいる。
 問題はそこではなくて。

「お前、その大樹の廃図書館はここと真逆の方角だわ」

 セリアが地図の方向を指差すと、男は嬉しそうに笑って「ありがとう」と言った。――まだこんな風に笑える人がいたのね。
 気を付けて。と告げたのも束の間、その男は早速指し示した方向とは逆へと歩き始めていた。

「お待ちなさい」
「まだ何か用か?」
「ええ、とても大切な用だわ。――お前は本当にその図書館へ行きたいの?」

 男はキョトンとして目を瞬かせ、当然だと言わんばかりに力強く頷いた。セリアは笑いそうになるのを堪えながら水晶の杖を軽く振って口を開いた。

「そのままだと一生辿り着けないわ。案内して差し上げます、着いて来なさい」

 スズランに明かりを灯し、セリアは小さく微笑んだ。

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