美しい残像
──月夜の晩に、影を見た。
今はもう亡き、夜色の影。淡い色の着物が、よく似合う少女だった。妖との混じり者が多いこの国では珍しく、人間同士の交わりによって為される一族の少女だった。
儚く、美しい人だった。夜の帳に包まれたかのような、艶やかな黒髪を撫でてやるのが、例えようもなく幸せだった。
己は妖で、彼女は人で。
寿命の差等、わかっていた筈なのに、涙を流さずにはいられなかった。
己が気持ちを伝える事は無く。彼女がまた、己に何かを告げる事も無く。
ただ、傍に寄り添っているだけで。
他愛ない会話を重ねるだけで。
些細な幸せが積み重なるという事が、幸福だと初めて知った。
「──芹、」
満月の下、視ゆる幻に、思わず手を伸ばした。
title//幻相馬車
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