死神の誘惑
「お前は今から死ぬんですよ」
──それは残酷な託宣だった。
まだ酒も飲んでない。煙草も吸ってない。彼女だって、いたことがない。
ルックスが悪いわけじゃない。ただ、他より地味だっただけ。目立たなかっただけ。ただ、ただそれだけで。
「なん、で、」
そう、絶え絶えに喘ぐのでいっぱいいっぱいだった。目の前に立つ、黒いローブを羽織った少女は、ひゅ、と風切り音を立てて大鎌を旋回させ、切っ先を俺に向けた。
「てめーの寿命が短かっただけですんで」
トトの知ったことじゃねーです、と拗ねたような呟きも、続けて聞こえた気がした。
俺はただ、必死になって。そのローブを、思い切り、引っ張って。
「ちょ、何しやが──」
バランスを崩した死神は、俺の足の間に倒れ込んだ。投げ出された大鎌が何処かへと消え失せた。──いや、そんなことはどうでもいい。
「ごめん、でも、」
童貞だって捨ててないのに、と思わず吐き捨てた後で、ハッとして少女から目を逸らす。
フードを深く被っていた所為だろうか、短く切り揃えられた銀の髪が波打っている。
「──未練をなくさせんのも、仕事ですんで」
仕方ねーですね、とぼやいた少女は、その小さな手を俺の股間に伸ばし──
「うわわわわ!?」
「ちょ、逃げやがんなですよ!?」
「いやだってそんないきなり」
「女みてーなこと言ってやがんなですよ!!」
そんな罵声と共に、勢い良く股間を握られた。正直、悲鳴も出なかった。今、家には誰もいない。俺が情けなく喘いだところで聞き咎める人間なんて誰もいない、が。
「は、ご立派様な癖してどーてーなんて哀れ以外の何ものでもねーですね」
指先で弄られる。気の抜けた声が出そうになるから、何も反論出来ない。少女はといえば、そんな俺を見上げて意地悪く笑ったかと思えば──ぱくりと咥えやがった。ムスコを。
「ふぇふぁふふぇふふぃひふぁいんふぇーんふぇふふぁ」
「っあ、ばかしゃべんっ、っん……!」
生暖かいものが先を舐めるような感触がして、背筋がぞくぞくとする。口元を押さえても、出そうになる声を噛みしめる余裕がなくて。
「っあ、やめ、ばっ……で、るっ──!」
その時の思考は、俺はロリコンだったのだろうかという一点のみだった。
少女は口内にぶちまけられた白濁液をごくりと飲み下すと、口の端を拭って、ずいと顔を近付けた。
「悪くねーですよ」
……これは、褒められたんだろうか。
「仕方ねーですし最後までやってやります。冥土の土産に精々楽しみやがれです」
ローブを脱いだ少女のカラダは、思った通り平らで、しかし女の子らしい丸みも帯びており、不覚にもムスコは起き上がった。
──前略。俺はもしかしたら、夢を見ているのかもしれない。
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