私は天才が大嫌いだ!
ペルセヴェランテは田舎生まれの田舎育ちだ。家事を手早くこなし、幼い妹や弟の面倒を見たりと毎日を忙しなく過ごしていた。
ペルセヴェランテの兄は所謂「天才」という奴だった。狩りをやらせれば誰よりも大物を取って来ては、誰かに自慢するでもなくただ静かに曖昧な笑みを浮かべるような人だった。
自己主張の激しい人ではなかったと記憶しているが、ペルセヴェランテは兄が好きではなかった。これはきっと僻みだ。何をしても兄より劣る。そんな自分が嫌で嫌で仕方なかった。
その感情に拍車をかける出来事があったのは、ペルセヴェランテが14になる頃だった。
兄が失踪した。
ただ一枚の紙切れを残して、自分の数少ない荷物だけを纏めて姿を消したのだ。
「僕にしか出来ない事をやりに行く」
普段は極力温厚でいようとしているペルセヴェランテが激昂し、幼い妹弟たちの前で机を殴ったのは後にも先にも、今日この日だけだった。
稼ぎ手を失ったが、父は「あいつは出来る子だから」などとのたまう。アホかと思った。父親のかせぎがたかがしれている事をペルセヴェランテは理解していた。
嫁に出て幸せながらもギリギリの生活を送っている姉を頼るわけにもいかない。覚悟を決めたペルセヴェランテは、寝たきりの母にだけ相談を持ち掛けた。
「――だからね、母さん。私、勉強して監理局に入ろうと思うんです」
「……お前が決めた事だ、お前の思うようにおやり。でもね、母さんは何時でもラテの味方だし、ここはお前の家だ。辛いこと、悲しいこと、たくさんあるだろう。そんな時は帰っておいで。
母さんが父さんの尻引っ叩いて働かせるからね、無理はするんじゃないよ?」
「いいのよ、母さん。母さんこそ、無理に働いてまた倒れたりしたらダメだからね」
ペルセヴェランテは母が好きで、この世で一番尊敬している人だ。若い頃は薬師として活躍していたと聞くが、体調を崩して以来、田舎に帰って来て療養をしていたと言っていた。
今でも村の人には先生と呼ばれて慕われている。――兄は穏やかで優しい母にそっくりだった。それも嫌う理由なのかもしれない。母の優しい手に撫でられながら、ぼんやりとそんなことを思った。
――村を出て数年。
入局テストは勿論一発合格した。当然の結果だ、この日に備えて必死に勉強してきたんだ。私が初めて務める事になった古書課(正式名称は“古書・魔術書解読課”)で、私はそこそこの仕事がこなせ、課長にもほめられ、大分天狗になっていた。それは認めよう。だが、ここに来てまで私の大嫌いな“天才”に遭遇すると思わなかった。なんて、ついてない。
そいつは任せられた仕事は手早くこなせる才能がありながら、あろうことか書類を紙飛行機にして飛ばしたりする。なんて奴だ。天才? 天災の間違いじゃないのか! 大迷惑もいいところだ!
そして今日も今日とて、その天災に苦しめられるのだから、ついてない。
「天才なんか、大嫌いだーッ!!!!!」
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