束縛の鎖
──オルタンシア、わたくしの可愛いオルタンシア。神に愛された自慢の娘。
「っ、は」
息荒く意識を覚醒させる。辺りを見回してから何もいない事を確認して、細く長く息を吐く。脳内で反響する甘ったるい声に吐き気がした。
「……おにいさま」
心細い。サイドテーブルに置いていた金貨を鎖に通し直して首に下げ、また息を吐く。ざわざわとして、落ち着かない。自らの動きに合わせ、衣擦れの音を立たせるネグリジェすら煩わしく思えた。
「──お兄様、」
部屋を出る。裸足のまま、早足に。──駆け足に、急ぐ。どこもかしこも暗く静まり返った城内は不気味で、怖気がした。
ノックはしない。扉を開けて、中へ身を滑り込ませる。ベッドの上へ上る。しゅる、と音を立てたネグリジェをたくし上げ、眠るその人に跨るように膝を立てて。
「──、」
素直なオルタが言う。こわいから、ふあんだから、さびしいから、一緒に眠って、と。
神に愛されたオルタンシアが言う。愚かで愛しいお兄様、まぐわいましょう。交じりましょう。溶け合いましょう。──と。
ぐるぐると、ぐちゃぐちゃと、綯い交ぜになったそれらに頭痛を覚えた。──掛布の中、身動ぎの気配に、微笑んだのは──。
140723
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