遠い時間
想い人が亡くなった、その年。
──俺は、空狐と成った。
「芹、俺ぁ気付いたら三千も生きたらしい」
飾った花は、いつか贈った君によく似た儚い花。
「──遠いなぁ、芹」
すぐそこにいたはずなのに。時が過ぎ行くのは早過ぎる。──人と妖の生きる速度は、違い過ぎる。
「尾がなくなっちまったから、もう枕代わりは出来ねえなあ」
くつりと喉を鳴らし、墓石に真水を掛ける。墓前に溢れかえる程の白く儚い花が、冷たい夜風に揺れた。
「──芹、俺は……」
ぐ、と拳を握る。結局、最期まではっきりと言葉にすることはお互い、無かった。あの美しい夜色がどう想っていたのか、万能の己とて知る由もなく。
「俺はずっと、……ずっと。──芹、君だけを想い、君だけを愛して、君の愛したものを全て守っていくよ」
誓おう。己の、永く際限のない時を、君に捧げると。──だから。
「──雨が降って来やがったかね」
今だけは。君の死を悼み涙を流す事を、許して欲しい。
140723
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