short | ナノ

深き森の水晶

 此の世であって、彼の世であり、現であって夢である。複雑な境界の狭間に有るその森は、昼夜の境界すら曖昧で、時問わず繁る緑に煌めく水晶が美しい場所だった。例えば、その水晶を食物とし生きる鳥がいる。その緑から発せられる魔力を吸って明るい花を咲かす植物がある。

 その森は森自体が生物であり、概念である。その深き森に棲む魔女と言えば、名は知られて居らずとも存在はまことしやかに囁かれていた。──曰く、水晶に宿る魔女だ、と。それは人の見た夢。人の望む幻。幼い少女であり、麗しい女性である魔術師に他所の言葉などまるで意味をなさないのだが。

 魔女とは唯一であり、それ即ち他の魔女が有る事が赦されないと云う意味でもある。森の奥の奥、煌めきを保つ水晶の手入れをしながら、魔術師はぼうと物思いに耽る。この境界に踏み入れる事が出来るのは、魔術師の中でも極々僅か、それこそ両の指で足りる程しかいない。そも、そういう者たちにしてみれば、態々この森に踏み入れる事に意味を見い出せず、訪れる者と言えば余程の好き者しかいない訳だが。

 管理者で在ると決めたのは己だが、如何せんこう暇では諸々を持て余すというものだ。時間は有限である筈なのに、此処にいてはまるで無限であるかのように感じる。たちの悪い場所だ、と一人ごちれば、水晶が不機嫌そうに色を曇らせた。
 別にこの場所が嫌いな訳ではないよ、と言い足し触れてやれば、また輝きを取り戻す。些細な言葉に一喜一憂するその様子はまるで女のようだ、と自身もそうであるに関わらず、心中で嘆息した。

 飽き飽きした訳では無いが、刺激が欲しい。──そう願うのは、果たして傲慢であろうか。

涯さん@CulltEnCeav #反応下さったフォロワーさんのイメージSSを書く

top
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -