毒棘と情報屋
「マスター。メイリデが何やら、人を連れて来ましたが」
「メイリデが警戒していないのなら、構わないのだわ。通して頂戴」
どこかよたよたとした歩き方ながら、隣を不安げに歩く青年の指をしっかりと掴んで、メイリデは侃紫の部屋へと無事、到達する。
「Mother!」
明らかに人では無いであろう色を持つ少女が流暢な英語を放ち、青年は思わず視線を呼びかけられた女性の方へと向ける。
「あら、あら……随分と大きな拾い物をしたのだわ、メイリデ」
「……毒島侃紫さん、だっけ」
「憶えていてくれて光栄だわ、狼に喰らわれた後の問題はなくて?」
ひくりと口の端を引き攣らせる。余り思い出したくない事を思い出させてくれる。
「ええ、おかげさまで」
「それは何よりだわ。さあ、いらっしゃいメイリデ。何故そんなのを拾ってきたのかしら」
──そんなの扱い。引き攣るこめかみを押さえながら、やれやれを首を振る。これは確かに、一筋縄じゃいかない。
「知りたい薬の情報があるんですけど」
「媚薬ならお断りなのだわ」
「違いますから」
くすくすと人を食ったような笑みを浮かべる毒棘を目の前に、東はゆるりと疲れた息を吐き出して。
(これは、長期戦覚悟……かなぁ)
乾いた笑みをこぼした。
(侃紫と東さん)
← top →