Q.眠り姫は忘れた自分の夢を見るか?
とろり、と。何かが零れて、落ちていくような錯覚。
いつも見る、誰かの夢。これは、誰の夢?
「ぼく」じゃない、「だれか」のゆめ。
深い、森の奥。美しい金髪に、長い耳。整った顔立ちをした、知識の一族が住まう森。毎日、毎日。探究は続く。その行為に終わりなどなく、安息などなく、――怠ける暇も、なく。眠りは浅く、夢も見れず、揺蕩う暇もなく。
――逃げ出した。恐らくその「少女」は、その一族に生まれるべきではなかった。ただのひとつ、自分の眼と同じ色をした宝石が埋め込まれたペンダントだけを持って、逃げた。追手はない。逃げ出せば、それで終わり。
自由だ、と思った。
まずは詰め込んだ知識を忘れた。そうしてから、あの森を忘れた。そうして、自分が「何の一族」なのかを忘れた。友人を忘れた。親を忘れた。そうして、そうして。――「自分」を、忘れた。
髪は色を失い、白銀となり。眼はより暗い紅へとなり。
眠ろう、と思った。疲れて疲れて仕方がなくて。体内に残された魔力は少なく、頭がただただ眠れと訴えた。
眠りに、落ちる。水底へ沈むような、空へ浮かぶような。
落ちていく。どこかへ、落ちていく。
「……ん、」
身を起こす。幾度かまばたきを繰り返して、そうしてから長さの不揃いな銀糸の髪に、軽く手櫛を通した。なにか、夢を見ていた気がする。あれは誰だったんだろう。夢に見るからには、「昔」「何処かで」「会った事が」「ある」――の、かもしれない。
「……んん」
ちいさな傲慢に会うまでの記憶は、正直曖昧としてて。
強いて思い出すのは、快適な安息の場を求めていた、ということくらいで。
「……くあ」
小さなあくびをこぼして。また、うつらうつらと船を漕ぎ。
Q.眠り姫は、忘れた自分の夢を見るか?
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