夢を見たまま死ねばいい
レクス・アヴァロンは監理局に属さない契約者である。
――元監理局員、と言うべきか。
監理局のやり方についていけず、何時だかの任務で見つけたこの森の図書館に、自身が所有していた大量の魔術書と共に引っ込んだのだ。
「暇だな」
『それはそうでしょうねぇ』
艶やかな女性の声が、小さく笑った。
『こんな辺鄙な場所にある図書館に来るなんて、よっぽどの物好きか……あのフクロウちゃんか……そうねぇ、後は人外って感じじゃないかしら?』
「わかってるわよ、静かに暮らしたくてここに来たんだから」
レクスの傍らに浮く禁書が、笑うように震えた。
『ああ……ほら、お客様よ?』
「――大事な奴を忘れてたな」
貴重な本は、高く売れる。――所謂、ビブリオマニアという人種に。
ここには貴重な本が大量に眠っている。何れもレクスの所有物ではあるのだが、ここに人が住んでいるということを知らない人間は余りにも多い。(というより、人外の類だと思われているらしい。まったくもって心外だ)
「さあ、あたしの理想郷。彼らに果てない夢を見せましょう」
『承諾するわ、マイマスター』
生い茂る草木を手斧で斬り落とし、本棚をがさつに漁る。
レクスは露骨に嫌な表情を隠さずに、小さく小さく呟いた。
「夢を見たまま、死ねばいい」
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