短い夢を見た。高校に入り立てで、冷めた性格の俺に臆すことなく飴玉を差し出すレムレス。入学当初の俺には近寄り難い雰囲気があったらしいが、もちろんそんな意識をしていたわけではなかった。物事に無関心で無口、何に対しても素っ気ない奴なのだと思われがちになるのは、少々不器用で口下手な所為。しかしレムレスは違った。率直に言うと変わり者だと思った。俺の性格とは真逆でよく笑い、甘いものが好きな奴。接点など全くと言って良いほど無いコイツが俺に声をかけるなんて奇妙な話だ。レムレスは、俺が持っていたCDを指差して口をパクパク動かした。ちょうど友達に貸していたものが返ってきたところだった。


「ねえ、君、もしかしてこのアーティスト好きなの?」

「ああ……まさか、お前も?」

「ずっとファンなんだ!でも僕、アルバムで精一杯でさ……」

「あの、CD全部持ってるけど、貸そうか?」

「えっ、いいの?やったぁ」


ちょっとだけ、距離が縮んだように思えた。そんなやり取りをしてからもう二年くらい経つ。その間にニューシングルが出たら、翌日の会話がいつも以上に弾んだ。レムレスのおかげで俺も丸くなったようで、いつしか偏見も消えていた。










けたたましくアラームが鳴る。腕を伸ばしてアラームを切り、うつ伏せになって枕に顎を乗せる。起きる気がしない。レムレスがいない学校なんてつまらないだけだ。しかし俺にはノートを写させてやるという使命がある。もぞもぞと布団から出て、寝癖の付いた髪に指を通した。俺には何も出来ないのだろうか。アイツの力に、なりたいのに。
寝ぼけ眼のまま簡単に準備し、欠伸をしながら自転車をこぐ。浮かぶのはレムレスのことばかりだった。ぼーっとしているうちに一日が終わる。最近はやけに時間の経過が早い。コキ、と首を鳴らして向かった先は病院の逆にある小さなケーキ屋。俺は最近バイトを始めた。金に困っていたわけではないが、自分で稼いだ金でレムレスにプレゼントを買いたくて。そう、周りはクリスマス一色で浮き足立っている。イベント事に無関心な俺も、今年は珍しく興味を示した。レムレスは喜ぶだろうか。
バイトが無い日は見舞いに行った。時々しか行けないことが悔しいが、今は我慢だ。容体があまり良くないのは一目見るだけですぐにわかるのに、レムレスは無理に笑おうとする。上手い言いまわしを見つけることが出来ない俺は、たわいない会話を繰り返して淡々と過ぎていく日々。そして今日、レムレスが初めて俺の前で泣いた。


「お願い、きら、に、ならな、で」


噛み締める嗚咽は悲鳴となって反響する。どうしてもっと早く気付けなかったのだろうと後悔が押し寄せ、ただ抱きしめることしか出来なかった。ポツリポツリと、へたくそだとしても真っ直ぐな言葉を交わす。安心したような緩い笑顔を見た俺も、つられて口角を上げた。
そうして初めてちゃんと聞く、レムレスの病気の話。一言一言を受け止めるように、じっと耳を傾けた。我慢させてごめんな。ツラかったよな。くしゃくしゃと撫でる。悪戯っぽく笑ったレムレスは、仕返しをするように俺の髪をぐしゃぐしゃに乱した。
もうすぐだから。もう少しだけ、待ってくれ。そうしたら存分に甘やかしてやるんだ。










なあ、ひとりでじゃなくて、ふたりでがんばろうよ


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