毎日ほとんどの時間を一緒に過ごしていたアミティが、パタリと来なくなった。容態が悪化したのだろうかと心配なのだが、向き合える勇気がなかなか出ない。まさか、いや、退院したのかもしれないじゃないか。ひとりで考えていても、うごめく不安は拭えなかった。
しばらく経ったある日、僕はようやく決断してアミティの病室を探しに行った。近いらしいということを知っていたからなのだろうか、すぐに見つけることが出来た。ひょこりと覗き込んだ部屋が明るく見えるのは、日だまりの中に佇む綺麗な金髪が揺れているからだろう。アミティはマシュマロのビンを抱いて窓の外を眺めていた。
そっと近付こうにも、点滴のカラカラ言う音がうるさくてすぐ気付かれてしまった。ぱっ、と振り向いたアミティは以前と全く変わらない様子でニィと笑い、口を開いてつぐんだ。慌てて取り出したのは、スケッチブックとマジックペン。首を傾げていると、サラサラ文字を書いて僕に見せた。


(このあいだ手術をやって、安静にしなくちゃいけないみたいで、あそびに行けなかったの)

(ごめんね、ありがとう)


ササッと書き足した文字も含めて何度か読み、アミティを見て、あまりの違和感にドクンと心臓が波打つのを感じた。僕はアミティがどんな病気か知らなかった。アミティも僕の病気を知らない。でも、まさか、こんな形で知ることになるなんて――――呆然としていると、アミティはまたスケッチブックに何か書き始めた。まとまらない思考は、かろうじてペンの動きだけを捕らえた。


(びっくりしたよね。私の声、なくなっちゃった。いのちと、こうかんしたんだ)

「そんな、君の、声……もう、聞けないの?」


(レムレス、そんな顔しないで、)



(私は、しあわせだよ)


しあわせ、という文字と屈託のない笑顔がじわりと滲む。可哀相だとか同情だとか、そんなことは一切思わなかった。彼女の芯の強さ、明るさ、すべてが僕の押し殺していた感情を呼び覚ましたのだ。生きたい、と。端っこで小さく小さく諦めていた感情。心の面では、すでにお膳立てが出来ているつもりになっていた。なんだよ、僕、ぜんぜん駄目じゃないか。彼女は声を失っても希望を失ってないのに、何も失くしていない僕が希望を失っているなんて可笑しな話だ。
僕の表情が突然崩れたのを見て、アミティは驚いたようにスケッチブックを放り出した。頬を包み込む小さい手の平は、とてもやさしくてあたたかかった。彼女が差し出した小さな星を見たそのとき、僕はへたくそな笑顔を浮かべたのだった。










うん、僕にもしあわせが、あるじゃないか


(気付かせてくれてありがとう)


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