たまに電車のホームで会う中学生くらいのアンテナくん。表情を読めないから、正直苦手だ。以前、彼が落とした定期を拾ったことがある。「落としましたよ」と声をかけたところ、無言かつ無表情で定期をスルリと受け取って、気付いたら改札口からホームの中央に移動していた。僕は苦笑を浮かべながら眼鏡をクイと上げ、少し離れた場所で電車を待った。
………という出来事があり、そのときから彼が目の端っこに映るようになった。よく帰りの時間が被り、今日も、そうだった。いつものように少し離れた場所に立つ。このまま普通に帰るつもりだったのに、今日はいつもと少しだけ違った。目の端っこに居たアンテナくんが、僕の目の前にやって来たのだ。ビックリ、した。半歩下がった衝動で眼鏡がずり落ちる。慌ててかけ直そうとしたら、アンテナくんに眼鏡を取られた。定期を受け取ったときと同じように、スルリと無駄の無い動きで。ただ、無表情であっても無言ではなかった。


「おにーさん」

「え、えぇと、どうかしたの?」

「おにーさんに、言いたいことがあるんだけど、いい?」


これを完璧な無表情と言うのかと思うくらい、彼には全く表情が無い。中学生のくせにと内心で唸る。このとき僕は少し勘違いをしていた。彼はずっと無表情というわけではなかったのだ。不意にニヤリと笑い、手に持っていた僕の眼鏡を舐めた。本日二度目のビックリ。なんて表情をしているんだこの子は。いろいろと中学生らしくない彼に戸惑いを隠せず、つい後ずさってしまった。それが自滅への行動になったのだが、焦っていた僕は気付かない。ホームの所々に立っている支柱の壁に背中がくっついて、やっと自分の危機感に気付いた。
無表情だった彼は、笑 っ て い る。


「あ、あの……?」

「この前は、ありがとう」


アンテナくんの少し上擦った声。ああそうか、彼はこれを言いたかったんだ。遠い昔の話なのに、ずっと覚えていてくれたんだ。そう思ったら、いろんな感情が混ざって顔がどんどん熱くなっていった。嬉しいやら恥ずかしいやらで、僕はただニヘラと笑うことしか出来なかった。アンテナくんは「これお礼」と言いながら眼鏡をかけてくれて、そのまま流れるように唇が僕の唇に触れた。初めての感覚に体が強張る。思考が追い付くまで数分かかった。アンテナくんはもう一度ニコッと笑って、いつもの立ち位置に戻る。僕はと言うと、体中の力が抜けてヘナヘナとその場に座り込んでしまった。顔が、熱い。こんなに熱くなったのは、生まれて初めてだ。





電車のホームで会いましょう



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30000打フリリク企画!
ほのぼの学パロ+αのリクエストを頂いたので、電車通学の二人を書かせて頂きました。リアタイの眼鏡レムレスと無表情シグくんのシチュに反応してくださって嬉しかったです!
企画に参加してくださってありがとうございました!



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