人混みの中で、アイツの後ろ姿を見つけた。背中だけでわかるようになるなんて、どんだけ好きなんだろう。自分で考えたくせして頬がカッカッと熱くなり、慌てて首を横に振る。静かに距離を縮めていくと、鼻歌が聞こえてきた。とても楽しそうだ。
伸ばしかけた手を触れる直前でピタリと止める。自分もあんな風に笑えたらと思ったら、つい躊躇してしまった。背中を視線だけで追い、この場に止まった分だけ鼻歌が遠ざかっていった。レムレスの目から見える世界はどうなのだろうかと時折考え、少し羨ましくなる。


「レムレス」

「っわ、どうしたの」


ポンと肩に手を置いたら、鼻歌が途切れて跳ね上がる体。突然の俺の登場に相当驚いたらしい。買物にでも行ったのだろうか、両手いっぱいに荷物を持って危なっかしくぐらついている。ひょいとレムレスから荷物を取り上げ、持ってってやるよと一言。レムレスはただ微笑んだ。
普段よりも遅くのろのろと足を進めたり、たわいない会話を交わして時折ヘラリと笑ってみせたり。なに、単なる人間ごっこだ。それでも幸せだった。まるでこの時間が終わってしまうのを惜しむかのように、途中で何度か立ち止まる二つのシルエット。なんかちぐはぐしてるよな、俺達って――ああ違う、俺だけか。内心で呟き、苦笑を浮かべる。俺を見ていたレムレスの笑顔に少しだけ深い陰りが映ったのを、俺は気付かなかった。





笑顔がもたらすプラマイゼロ



―――
30000打フリリク企画!
レムレス受とのリクエストでしたので、シェレムを書かせて頂きました。書いているうちに、ほのぼのした中でのちょっぴりシリアス気味になってしまいました……!
企画に参加してくださってありがとうございました!



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