青い空が急激に変化を見せ、分厚くて暗い雲が空一面を覆った。激しい雨が体を打ち付ける。急に降ってきたことに驚き、あまりの激しさについ舌打ちをした。とりあえず屋根を求めてやみくもに走る。足を進める度にバシャバシャと泥が跳ね、裾を汚した。
先客が、ひとり。ぐしょぐしょに濡れた服や髪を精一杯乾かそうと奮闘している。傍らには同様に水を含みすぎて色が変形した帽子と箒。すぐに誰だかわかった。


「よぉ」

「……あ、シェゾ」


レムレスの目がチラッとこちらを向き、俺を捕らえた瞬間ヘラリと緩んだ。見事に全身びしょ濡れで、髪がぺしゃんこになってへばり付いている。俺も人のことを言えないが。ふるふると頭を振って水を弾き飛ばそうとしたら、レムレスが湿ったタオルを差し出してきた。遠慮がちに受け取ったら、タオルからレムレスの香りがした。濡れているから、一層強く。意識しないようにすればするほど、クラクラした。
気を紛らわすためにそっぽを向き、湿ったあいつの髪をわしゃりと撫でた。髪が指に絡んで吸い付く感じ――やめろやめろこんなの逆効果じゃねぇか。うあああ、と急に頭を振ったらレムレスがビクリと後ずさった。とりあえず一旦落ち着こうとタオルを被る。その間もレムレスの瞳がこちらを向いていたとも知らず、ボクシングの試合を終えた選手のようにタオルを広げていた。あいつは声を出さずに笑っていたらしいが、俺は全く気付かない。


「風邪、ひいちゃ、うよ……」

「声を震わせながら言うな、声を。笑ってんのかお前」

「わ、笑って、なんか……ないよ」

「そんな可愛い表情してもごまかせねぇぞ、ほらほら」


レムレスの笑い声に気付いて振り向くと、俺に背を向けて耐えようともがいていた。なんかよくわからんが、恥ずかしいかも。顔がカッと熱くなった。これが漫画だったら、きっと俺の頭からはぐるぐると塗り潰した黒い渦が浮かんでいることだろう。緩んでいる頬をつまむと、奴の口からはフニャフニャとした何とも言えない声が出た。
雨はまだ激しく降り続いていて、屋根を叩く音がバラバラとうるさい。遠くでは雷が光り、時間差で低い轟音がこちら側まで伝達する。怖がるだろうと思っていたレムレスは全く怖がるそぶりを見せなかった。ただ予想外だったのが、自分の体がビクリと跳ねたこと。一応言ってはおくが怖いわけではないぞ。しかし、言葉と裏腹にその場で縮こまる俺が言うから説得力が無い。


「あれれ、怖いの?」

「こここ怖いわけではないと言ってるだろうが!」

「声、裏返ってるけど」

「レムレスしょうがねぇな一緒に居てやるだからこっち来いはやく来い」

「うわっ、と」


濡れたままのレムレスを濡れた腕で引き寄せ、ぎゅうと抱きしめる。互いに触れる頬が冷たい。遠くでガラガラと雷が轟く。一瞬ビクリと震えた体を、レムレスの手が優しく撫でた。腕に力を入れたら心音が伝わりそうで――まぁ率直に言えば恥ずかしかった。ずっとこうしていられたら、どんなに幸せなのだろうか。あと少し、あと少しだけでいいから。何も考えずにこの時間を過ごせたら、なんて。やけに人間じみた思考になった俺も、ずいぶん丸くなったなぁと苦笑する。それもこれも、全部レムレスのせい――いや、おかげかもしれない。





空、泣いてるのかな



―――
30000打フリリク企画!
シェレムとのリクエストでしたので、先日降ったにわか雨をネタにしてみました。あのシェゾが雷を怖がったら可愛いなぁなんて思いながら書かせて頂きました。ギャップ可愛い!
タイトルは柔らかいレムレス口調をイメージしました。彼はこういう発想をしそうだな、と思いまして^^
企画に参加してくださってありがとうございました!



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