「ようこそ、こちら側へ」

「臨、也……さん」


竜ヶ峰帝人は知らない。俺が紀田正臣にやったことを。竜ヶ峰帝人は知らない。俺が君にやったことを。俺は知っている。すべて、知っている。みんなは俺の手駒だ。いつでも欲しいときに引き寄せられるんだ。俺は一人じゃない。“君達”という名の手駒が居る。俺は君達を自由気ままに使うことが出来る。それは間違ったことでは無いだろう?みんなは俺を否定出来ない、否、否定する権利を持っていない。俺の下で、操られてさえいれば良いんだ。
紀田正臣のあとは、帝人君を引きずり込んだ。ただ単にひとりが嫌だった。ひとりが寂しかった。だから俺は、また仲間を作った。何も知らない、君を使って――。


「臨也さん?」

「……あ、ごめんごめん」

「元気無いように見えますけど大丈夫ですか?風邪、だったり……」

「いやいや、大丈夫だよ!」


帝人君の手の平が額に触れた。優しくて、暖かかった。俺の冷え切った心を、溶かしてくれるようだった。お得意の営業スマイルを貼付け、帝人君を引き返せない場所まで引き込んだら俺のミッションは達成される。俺が君だけを必要とするように、君も俺だけが必要になればいいんだ。そうしたら、俺はもう誰も引きずり込まない。ああ、約束しよう!俺を信用するかしないかは君次第――。


「……っふふ、さあ帝人君、」

「……あの、急にこんなこと言うのもどうかと思いますが……どうして、泣いているんですか?」


クツクツと笑っていたら、帝人君はキョトンと首を傾げながら小さく呟いた。俺の体は瞬時に凍り付く。彼は今、なんて言った?泣いてるって、え、誰が?俺が?まさか、そんなことあるはずがない。有り得ない―――有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得  ない有   り得な い。
なんのこと?薄く笑いながら顔を逸らしたら、帝人君の汚れの知らない綺麗な手が俺の頬に触れた。何かを拭うような動作に、つい彼の手を払おうとした。駄目だよ帝人君、俺に触れたら君は汚れてしまう。駄目だよ、俺は君のままの君がいいんだ。


「何を、怯えているんですか」

「……君こそ何をしたいんだい?」

「僕は、あなたを、救いたい」

「帝人君が、この俺を?ッハハ、面白い冗談を言ってくれるね」

「本気、です」


へにゃりと笑う帝人君の手は、俺の頬に添えられたままで。俺の唇は笑顔を作ろうと歪な弧を描いていたが、目元は何故か濡れていた。すごく、すごく帝人君の手が暖かかった。紀田正臣は、俺を恨むだろうか。竜ヶ峰帝人を、こちら側に引きずり落としたことを。紀田正臣を、呆気なく投げ捨てたことを。


ああ、












やっぱりおれはひとりなんだ。


手駒は手駒らしくしていろ


―――
30000打フリリク企画!
帝臨で正臣が絡むシリアスな話とのリクエストでしたが、こ、こんな感じでよろしいでしょうか?帝臨に見えにくいですが帝臨です!詳しく言えば帝人→臨也→正臣というサイクルが成り立っています。わかりにくい文章ですみません……。
企画に参加してくださってありがとうございました!



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